小説C

□絶望、浮遊して溺死
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本心だった、と思う。
「……もうさ、どうだっていいよ」
江ノ島がゆっくりと面をあげる。視線がぶつかることはなかったが。苗木が目を逸らした訳ではなかった。
「……もう飽きちゃった」
口の中で転がした言葉を彼女は受け取ってくれるだろうか。バカみたいだと一蹴されるかもしれないと思ったけれど、聡い彼女のことだから、きっとそれはないはずだとも思った。
江ノ島がゆっくりと腕を組む。
「……意味がわからないんですけど」
無表情がいつもより、冷たい。
「……飽きた?どうだっていい?……そんなの最初っからだろーがよ。アタシたちになにか面白いことなんてあった?熱中できることなんてあった?……そしたらこんなことやってないでしょ」
しかし怒ってはいない。
ただ冷めていた。
そんなことは分かっている。ただ生きることを絶望に見いだしてきたことだなんて知っている。けれど、それももう限界なのかもしれない。どうでもよくなってしまったことを甲斐甲斐しく続ける忍耐は、苗木にはなかった。
もしかしたら江ノ島よりも飽きっぽいのかもしれない。
「もういいんじゃない?舞園さんも死んだ、桑田クンも死んだ、不二咲さんも死んだ、大和田クンも死んだ、山田クンも死んだ、セレスさんも死んだ、大神さんも死んだ。充分だよ。充分絶望的だ。」
「だから飽きた……そういうワケ?はっ、絶望的に笑えねー」
こみ上げてくるのは笑いだった。
「……それは違うよ。みんながあまりにも簡単に死んでしまうから……もっと膠着するかと思ってたのに、簡単にコロシアイが始まってしまったから。抗わない敵を倒してもツマラナイでしょ?」
もっと手こずりたかった。思案して模索して、それでやっと始めたコロシアイを、友情とか絆でぶち壊されかけて、また更なる絶望を送り込む。
こんなに、坂を転げ落ちるより簡単に上手くいってほしくなかった。けれど始まってしまった。舞園さやかが殺してしまった。
今ではなぜだか、とてもバカバカしい。
「もう、生きてる意味がなくなっちゃったよ」
江ノ島はいつからか、こうべを垂れて目を伏せていた。
「ねえ、江ノ島循子」
聞いて欲しい。お願いだから聞いて欲しかった。これだけは受け入れてほしい。頷いてほしい。理解してほしかった。
「……ボクを殺してよ」
返事はない。江ノ島は下を向いたまま動かない。
だいじょうぶだ、やすやすとうまくいくなんて思っていなかった。苗木は首を傾げ、息を吸い込んだ。
「……じゃあこんなのはどうかな?キミの大好きな戦刃さんの死体をダミーにするんだ。その死体を……その生徒を殺した裁判を開く。犯人はボクだ、やりやすくなると思わない?」
「……なにを」
「……コロシアイ生活だよ」
空気が変わる。江ノ島が悪くないと思い始めている。実の姉の死体を侮辱する行為を。
殺人を欺いてゲームを進める理不尽を。
江ノ島が、上目で苗木をうかがった。
「……今まで、裁判で活躍してた苗木クンが、絶望的にオシオキされてしまったら、みんな、意気消沈すると思わない?」
「……苗木」
「なに」
「……いいよ。」
アタシがいちばん絶望的な方法でアンタを殺してあげる。
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