小説

□手のなかの硝子
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叶わないものだなんて、解ってる。
そんなの、知ってる。
でも、嫉妬深い俺は、諦めきれない馬鹿なばかなバカな俺は、今日も笑みを顔に張り付けるんだ。
「せーんぱいっ」
こう呼ぶと、先輩はピンク色の髪を揺らして振り向く。
「どうした?狩屋」
「いいえ、なんでもないですよー。
先輩が俺と話したそうにしてたんで、話かけてあげただけです」
冗談めかしてこう言うと、先輩は苦笑して、そうか、と答えた。
先輩にとって、俺はただの後輩でしかない。でも、俺にとっての先輩は――違う。
先輩のその顔を見る度に、先輩にとって俺はただの後輩でしかないことを痛感させられて、心が痛む。
「今日も神童先輩と帰るんですか?」
こう尋ねれば、
「ああ。部活終わった後にな」
当然のようにこう返ってくる。
それを分かっているハズなのに、この質問をしたのは何度目か、分からない。
遠くから、霧野、と呼ぶ声が聞こえて、霧野先輩はそちらを振り向く。
そして、神童、と呟くと、
「それじゃ、またな。狩屋」
こう言って、身を翻して行ってしまう。神童先輩のところに。
霧野先輩に話しかける度に、神童先輩の話題が出てきて、その事を笑顔で話す霧野先輩の顔を見るのが寂しくて、
でも霧野先輩の笑顔を見るのは嬉しい。
でもその笑顔が見られるのは、神童先輩のおかげな訳で。
つまり、俺は――
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