小説

□張り詰めすぎた、
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夕焼けの赤い日射しがグラウンドを染めるころ、練習は終わる。
もちろんそれは夏限定であって、冬でのそれはもう夜の景色であった。星ですら空に瞬き、月は静かに夜の空を飾る。そんな風景をまだ見られるはずのないこの季節は、人の心を必要以上に苦しめてしまうらしい。
夏バテ、という言葉ひとつで片付けてしまうには、それはあまりにも重大すぎる、そう俺は思うのだった。

話は3週間ほど前に遡る。
部室の片付けをしていた時。
霧野先輩は、急に質素なテーブルに片手をついた。その出来事は、俺に先輩の不調を意識させるには十分で、しかし、先輩が弱音を吐かないことくらい痛いほど把握しているのであった。
そして、それは俺に心配をかけまいとしているせいであろうことも分かっており、つまり皮肉なことに、間接的に俺が招いた事態であったのだ。
その後の練習で、注意深く先輩の様子を伺ってみたものの、それから導かれる結果は、やはりどこにも不調はない先輩だった。
休むことを促すように言葉をかければ、それはもちろん断られる。
それが歯痒くて、そしてなにも出来ない自分が苛立たしくもあった。

それで話は冒頭に至る。
3週間経った今も、先輩はいまだに不調を匂わせ、しかしやはり気丈に振る舞っている。
なにを言っても先輩が聞き入れてくれないことを痛感しながら、仕方無く家路についたものの、やはり頭のどこかでは先輩の体調を案じているのであった。
幸いにも今日は金曜日。
休日ならば、先輩もいつもよりかは休息をとれるはずなのだ。
そんなことを考えながら、部屋の電気を消した。
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