小説

□張り詰めすぎた、
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しかし、そんなことが俺の希望的観測にしか過ぎなかったことを、休日明けの月曜日、俺は痛いほどに思い知った。

「せん、ぱい」
「……どうした?狩屋」
そう答えた口調とは裏腹に、目の前の先輩の姿は目も当てられないほどだった。
目の下には酷い隈ができ、笑みもどこかぎこちない。
たとえ今倒れたとしても不思議ではないような、少し頼りない足取り。
本当に、いつ倒れたとしてもおかしくはなかった。
「休んでて、ください。
……グラウンドでフラフラされても邪魔ですよ」
懇願するようにこう告げるも、やはり先輩の答えは同じだった。
「大丈夫だよ、狩屋」
部活行くぞ、と促され、しぶしぶ先輩のあとに続く。
その後すぐ、先輩が俺の視界から消えた。


「大丈夫じゃ、ないじゃないですか……」
保健室のベッドの上の先輩にこう呼びかけるも、返事はない。
当然だった。
俺はバカだ。大バカだ。
なんで、こんなになるまで放っておいたんだ。
「大バカだ……!」
自分を嘲るように、乾いた笑いをこぼす。すると、こぼした覚えのない涙まで、頬に伝っていた。
「かり……や……?」
なんで泣いているんだ、とばかりの目で俺を見る寝起きの先輩の表情には、明らかに困惑の色が浮かんでいた。アンタのせいだよ分かってんだろ、と心の中で愚痴る。先輩は、ベッドから上半身だけ起こして、俺を見る。
「……ごめんな」
先輩の口から発せられたそれはやはり俺への謝罪の言葉で、特に俺の涙に対しての物だということは間違いないだろう。
「でも本当に、大丈夫だから」
大丈夫、大丈夫だ、と続けた先輩のこの言葉は、自分に言い聞かせているように聞こえた。
「……どこが、大丈夫なんですか」
「……もう大丈夫だよ。ちょっと疲れてただけだから」
口を開けば大丈夫、大丈夫。
「……大丈夫だよ。大丈夫。」
これに続けて大丈夫、と言いかけた先輩がいるベッドに身を乗り出して、唇を塞ぐ。一瞬だけ、くぐもった先輩の声が聞こえた。
先輩の肩を抑えて、ベッドに押し付ける。その圧力に、先輩の上半身は倒れた。そして唇を放す。
「……少し、黙っててください。
それと休んでてください」
先輩は何も言わなかった。
ただ頷いた。
そして保健室から出ようと出口に向かえば、狩屋、と呼び止められた。
なんですか、と振り向けば、
「……ごめんな」
寂しげな笑顔でこう言われただけだった。
「……別に、どうってことないですよ」
そして保健室から出て、ドアを閉める。
立ち止まって、ドアに背をもたれて、
ふたたび零れ落ちた涙を拭った。

(張りつめすぎた、糸が、)(ぷつんと切れるように。)


*************
鬱話。
意味が分かりませんねすみません。
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