小説

□君にとっての出合いが、僕にとっての別れだとしたら。
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SARUは窓辺に腰掛け、空に浮かぶ月を眺めた。
月光が差し、部屋に伸びた影をつくる。
しばらくして空気が揺らぐのを感じて、SARUは溜め息をつき、それからおもむろに立ち上がった。
そしてすぐに部屋のドアが開かれ、部屋の中の影が、独りから二人になる。
「……どうしたんだい?
――フェイ」
微笑みながら発せられた言葉は淡々としていて、扉の前に立っている人物にまっすぐ届く。
「――君が呼んだんだろう?
まさか忘れたなんて言わないよね」
君ともあろう人が、と肩をすくめながら、フェイは言った。
「……どうだろうね」
ひょっとしたら忘れたかったのかもしれない、と、SARUは口元を歪めて呟いた。
「――フェイ、僕は君を傷つける」
「……そうかもね。もう慣れたさ」
少しの沈黙が流れる。そして、そんなことない、とフェイは思う。
「でもやっぱりさ、それじゃ駄目なんだ」
「だから君は……?」
「……違う」
ほら、やっぱり、君はやさしいじゃないか。
SARUはゆっくりとフェイのほうへ歩を進め、やがて止まる。
そして、自らの両手をフェイの頬に添え、フェイの瞳を見つめた。
フェイの瞳に、困惑の色が浮かぶ。
「君のことなんて、だいきらいだ」
「……奇遇だね、SARU。僕もさ」
そしてSARUはおもむろに手を離した。両手が、身体の横でだらりと垂れる。その腕が再び持ち上がり、フェイを抱き締めた。
フェイは一瞬だけ驚いた素振りを見せたものの、すぐに目を閉じて、それを受け入れた。
少しの間、影は一つに重なる。
「……それじゃあ、フェイ」
「……ああ」
SARUはフェイから腕を解き、そしてフェイを見据えた。
そして、フェイの頭へ手を添える。
愛しい物を見るような目で、そして少し切なげな目で。
その手からぼんやりと光が放たれて、フェイは倒れた。
SARUは、少しの間だけ、フェイを見つめていた。
そしてかがんで、フェイを抱き上げる。


「……サヨナラ、フェイ。
――大好きだったよ」
フェイを抱き上げたまま歩き出したSARUの耳に、僕もだよ、と、フェイの声が聞こえた気がした。




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