小説

□そして、更に壊れていく。
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しゃらり、と鎖の擦れる音がして、僕は目を覚ました。
手首から伸びる鎖。
それの存在に一瞬だけ驚いたものの、その感情はすぐに、またこれか、というなんの変哲もないものに変わる。
「……おはよう、SARU。
今度はこれかい?これはまたずいぶんと悪趣味だね」
SARUはおおきくかぶりをふって、
「君に分かってもらえないなんて、残念だよ」
そして、僕の手首にはめられた、重い枷に触れる。その手から淡い光が放たれて、枷が外れた。そこには、痛々しい、跡。くっきりと残る赤い跡はどう見ても不自然で、でも僕はそれを隠す必要はない。だって僕は出られないから。
「……痛むかい?」
SARUが心配そうに眉を下げて訊いてくるものだから、君のせいだよ、なんて軽く呟く。
「……べつに、大丈夫さ」
もう馴れた。
そしてなぜだか僕は急に、あの雷門で過ごしていた日々を思い出す。
屈託のない笑顔で笑えていた日々を。
こんな僕を見ても、天馬は僕を嫌いにならないだろうか。きっと答えはNoだろう。でももしかしたら天馬なら、と淡い期待を抱いてみる。
天馬と剣城は相変わらず仲いいのかな、きっとそうだろうな、なんて、他愛のないことも考える。
僕たちはなぜ、あんなふうになれなかったのだろう。どうでもいいことで話して、どうでもいいことで笑って。
なぜ君はこんなふうに歪んでしまった?僕のせい?君のせい?
きっと両方だ、と結論を出した。
「フェイ。笑って」
ふいにそう言われて、僕は笑顔をつくる。ちゃんと笑えていたかどうかが気になる。
でもできるなら、もし可能なら、僕は君の下じゃなくて、君の隣で笑いたかった。
「君の笑顔が一番好きだよ」
こんな優しい言葉をかけられるけど、どうせ君は、二番目に好きなのは泣き顔だけれど、とか、笑顔で残酷な言葉を言うんだ。
「食べちゃいたいくらい好き、なんて言うけど、僕の場合、殺しちゃいたいくらいに好き。こっちのほうがあってると思わないかい?」
そう言って君は、いとも可笑しそうに笑う。
でも僕には、どこがおもしろいのか分からないよ。
「……そうだね。ならさ、」
僕を殺して。
SARUが目を見開く。
「もう一度言うよ。僕を殺して」
どうせもうすぐ死ぬのなら、せめて好きな人に。
こくりと頷いた君の表情は、悲痛な色に染まっていた。




ぼくはなにひとつきみにわたせなかったよ。
たとえば愛とか愛情とか。
つくえのひきだしにある、わたせずじまいのプレゼントの山とか。
くさりでつないでしまった、自由とか。
安らかな死さえ、あたえられなかったね。
それでもぼくは――



   君が、好きだった。


(そして、更に壊れていく。)

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あれです。フェイくんがもうすぐ死ぬって言ってたのはセカンドステージチルドレンの力の反動。

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