小説

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『――あの水色の猫っ毛が、久々に。』

つくづく神童にはかなわないと、そう思った。
「どれ。写真写真っと」
携帯に保存してある写真の中から、どれかいいものを探し始める。
すると、ひとつ、目に入った。
高校の制服を来ている狩屋と、Tシャツ姿の俺。
たしかこれは、狩屋が初めて家に来たときの写真だ。
俺は笑顔で写っているが、当の狩屋はというと、少し照れくさそうに顔を背けている。
『ほら狩屋。写真撮るぞ写真』
『はあ?いいですよそんなん。
うわちょっといいですって……!』
『タイマーセットしたからいいから写れ。ほらほら』
『え、いやだから……っ!』
そうこうしているうちにシャッターが切られ、こんな写真になってしまった訳だが。
それはそれで、いい記念だ。
あとは最近撮ったやつ。
うしろで髪の毛をひとつにまとめている狩屋が、ケーキを食べている途中の写真。片手でケーキの乗った皿を持って、空いた片手でカメラにピース。
相変わらずの仏頂面で、口にはフォークをくわえたままだ。

「とりあえずこんなもんかな……。」
神童とは最近会っていない。
大学が離れて、住む場所も離れたからだ。
そして、送信ボタンを押そうとしたところで。
「昨日から先輩おかしいですよ。
携帯見てニヤケてばっか。
……彼女とメールでもしてるんですか?」
後ろから、狩屋がこう声をかけた。
「……彼女じゃないよ」
ほらこれ、とディスプレイ画面の写真を見せる。狩屋は一瞬だけ面食らって、すぐに目を逸らした。
「恥ずかしいから消してくれませんかね……?
いやなんですよ写真って」
「やだよ勿体ない」
即答すれば、狩屋は不満そうに頬を膨らませた。
そしてぴ、と送信ボタンを押す。
「あーっ!ちょっ送ったんですか!?
誰に!?」
「……神童だよ。
別に見ず知らずの他人じゃないから、安心しろ」
「神童って……神童先輩ですか?あの?」
他に誰がいるんだ、と苦笑する。
まあそれはそれで問題ですけど、と呟いた狩屋の言葉の意味は、俺には理解出来なかった。

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