小説

□コミュニケーション不足症候群
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「ねえ、セト」
唐突にカノが言った。カノがこう言うときは大抵次に続く言葉は決まっている。
「……なんか、寂しいよ」
そしてカノはそれに気付いていなかった。自分が弱いと思っているから、必死にそれを隠そうとする。でもそれに気付かれているだなんて思ってもいない。カノは思いの外分かりやすい人間だった。ベッドに二人並んで座っているというのに、カノは案外寂しがり屋だ。
「……カノ、」
そう名前を呼んで頭をくしゃ、と撫でれば、その俺より少し小さい体をもたれて預けてくる。
「これで、いいっすか?」
カノは俯き気味に頷いた。
いつも笑顔を顔に張り付けているカノのこういう表情が見られるのは俺だけなんだと思うと、少し優越気味になるのは毎度の事だ。不貞腐れたような、それでいて少し満足気な。
そんな事を考えていると、愛しさが加速するのも毎度の事。
丁度良い高さの肩に顎を乗せ、耳元で好きだと囁く。返事はない。
「聞いてるっすかー?」
それでも返事は帰ってこない。
そこから3秒間だけ待ってから、カノの耳朶に舌を這わせた。
「ちょ、セト……!っん、ぁ」
舌を更に内部へと侵入させる。わざとらしくぴちゃぴちゃと音を立てれば、びくりとカノの体が萎縮する。
「無視するから悪いんすよ」
そう言いつつ、今度は耳朶を喰んだ。
そしてまた舐める。
「ぁ、ん……セ、ト、ひぁ、ぅ……!」
こういう表情、声、だとか。
俺だけにしか見せないカノがここにいるのが嬉しかった。意外と耳が弱いのも、俺しか知らない。
「カノ、分かったっすか?無視するのはいけないことなんすよ」
いくら構ってほしくても、っす。
お互いの吐息を感じられるような距離で、こう囁いた。
「だって、セトが」
最近、構ってくれないから。
やっと聞き取れる位の小さな声でぽつりとこう溢されて、俺もカノも一気に顔を紅潮させたのは言うまでもなかった。
「……それなら思う存分、構ってあげるっすよ」
「……ほんとうに?」
「っす!……俺だって、我慢してたんすからね」
お望みなだけ、構ってあげるっすよ。
そう言って、カノに短くキスをした。

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