小説

□パソコンと嘘は俺と君にとって等しかった
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薄暗い部屋。
付いていない電気。
閉められたカーテン。
唯一の光源はパソコンのモニター。
まあシンタローくんの部屋らしいといえばそうなのだけど、せっかく遊びにきた僕としては少し味気ない訳で。
ずっとベッドに座ってシンタローくんを見るのも、少し飽きてきたところだ。
「ねえ、シンタローくん」
「……なんだよ」
こんな返事も彼らしい。
「シンタローくんはさあ、パソコン以外に何かすることないわけ?」
僕、少しつまんないなあ。
いかにもわざとらしくそう言うと、シンタローくんは椅子をくるりと回して僕に向き直った。
「じゃあお前は、俺のこと好きなの?」
意表をつかれたこの質問に、ごくりと唾を飲み込む。口が乾いていくのを感じる。
僕がシンタローくんのことを好きだなんてことは、紛れもない事実だ。
だって好きなのだから。でも。
「……さあ、」
黙れよ。
「どうだろうね?」
もう僕の中で嘘なんてものは当たり前になってきていて、誰かを欺くなんてことに罪悪を感じることなんてないと思っていた。
でもシンタローくんに対しては、やはり違うらしい。
自分の本心を口に出すことを極端に恐れていて、だからこうして嘘をついてしまう。
「シンタローくんにとってのパソコンみたいなものなんじゃないの?」
そう苦し紛れに言った一言を、シンタローくんはやっぱり聞き逃さなかった。
へえ。
そう言って、
「じゃあ俺がパソコンぶっ壊したら、カノは俺のこと捨てられるんだ?」
にやりと、口元が弧を描いた。
「……ほら、言ってみろよ。カノ」
違う、そんなこと出来る訳ない。
そう言えたらどれだけ楽か。
自分自身に染み込んだこの欺き癖を忌まわしく思う。
「お前さあ、誤解してんだろ。
俺にとってのパソコンは、お前にとっての嘘だと思うんだけど、俺」
「……僕も、そうだと思うよ」
そしてシンタローくんは立ち上がって、僕の方に歩み寄ってくる。
「じゃあ俺がパソコンぶっ壊したらさ、お前ももう嘘付くなよ」
そしたら俺、パソコンなんて粉々にぶっ壊してやるからさ。
そこで押し倒された。
洋服ごしに、冷たいシーツの感覚がひやりと伝わる。
僕の目をじっと見つめてくるシンタローくんの目線が苦しくて、思わず目を剃らした。
「……いつか、ね」
笑いながらこう言うと、
「……そうだな」
シンタローくんもこう言って、僕の顔に枕をぼふ、と押し付けるのだった。

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