小説

□ギャラクシーなんてなくたって
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空には分厚い雲、音をたてて吹く木枯らし。空を見上げれば雪が降ってもおかしくはなく、とどのつまりはもうすっかり冬の真っ只中を迎えていたのである。
そんな寒空の中、ホーリーロードの世界大会もといアースイレブンに選ばれなかった雷門中学校サッカー部のメンバーは、日々部活動に励んでいた。
ポジションごとに分かれて練習に参加していたメンバーだが、練習メニューを一通り終えて休憩に入った。
そこにはグラウンドの脇にあるベンチに腰掛けているディフェンダーの霧野蘭丸、そしてその足元の地面に座っている、同じくディフェンダーの狩屋マサキの姿もあった。
「狩屋は、座らないのか?」
ベンチ、と霧野は自分の横の空いていたスペースを手で示す。狩屋は数秒間考えてから、目線を霧野から反らし、
「……先輩の横に座るのも失礼かな、と思いまして」
これは嫌味でも皮肉でもなく、妙なところでだけ礼儀にこだわる狩屋なりの気遣いだった。無論霧野はそれを分かっていたし、相変わらず変な所だけ礼儀正しいやつだ、と心中で苦笑していた。しかしそれが少しばかり寂しくもあった。
……別に、今更俺にそんなこと気にしなくたっていいのにな。
霧野は先輩と後輩の主従関係に拘泥するほど心の狭い人間ではなかった。
それに、相手が狩屋なら話は別だ。
ただの先輩後輩と言うには、二人はもうお互いに深く関わり過ぎていた。
よいしょ、と声を上げながら霧野はベンチから立ち上がり、狩屋の隣にしゃがむ。
「なら俺がこうする」
そう言って、にっ、と歯を見せて笑って見せた。
「……そうですか。どうぞご自由に」
可愛くないやつ、と軽く呟きながらも、内心ではそんな狩屋が可愛くて仕方がなかった。
しゃがむのは足が少しばかり疲れるので、霧野は地面に腰を下ろした。
「……先輩は、寂しくはないんですか」
「何がだ?」
「……神童先輩に、会えなくて」
それを聞いて霧野は思わず吹き出した。確かに霧野と神童は仲が良かった。だがそれだけだ。それに狩屋の表情と、顔の背け方。嫉妬しているのは一目瞭然だった。
「……まあ、多少は。寂しいかな」
そう言って、霧野はちらりと狩屋を見やった。狩屋はそっぽを向いていて、その表情は伺えない。
こりゃ相当拗ねてるな。
思わず微笑みそうになるのをこらえて、霧野は付け足す。
「……でもまあ、狩屋がいるからそんなに寂しくはないかな」
本当だぞ、と念を押して狩屋の頭を撫でると、狩屋は霧野を見上げた。
「馬鹿にすんな、ばーか」
「馬鹿はお前だ、ばーか」
軽く流して言い返す。すると予想通りに狩屋は噛み付いてきた。
「なっ……!もう先輩なんて知りませんから!ばーか、ばーか!」
顔を真っ赤にして狩屋は走り去る。また霧野先輩に苛められたのー、と問う天馬がその先にいた。
こっちのが嫉妬するんだけどなあ、とため息を付きながら、半ば諦めにも似た気持ちで霧野は微笑した。狩屋が舌をだして、したり顔で霧野を見ていた。確信犯だ。
これからは狩屋を弄るのも程々にしよう、と霧野は思った。その度に天馬の所に行かれちゃたまらない。
空には分厚い雲、音をたてて吹く木枯らし。春は思っているよりも近い。職員室のテレビでは、桜の開花時期が迫っている事を知らせる気象予報が流れていた。

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