小説

□友情だって恋だってくくってしまえば愛なんですよ
1ページ/1ページ

ぱらぱらと、ページをめくる音がD音の耳に届いた。B子が読んでいた参考書の音だった。読んでいるといっても、つまらなそうに眺めてはページをめくるだけだったのだが。D音はB子が気付いていないのをいいことに、そんなB子と時折眺めていた。つい口許が緩むのを隠すように、D音は読んでいた本の上部を口に立てかけるようにして当てた。
「進んでますか?勉強」
本を机の上に置きながらD音はそう問いかけた。ことん、と静かな音が鳴る。億劫そうにB子も参考書を支えていた手を離し、自由になった両腕を背もたれに回した。
「……勉強って面倒だから嫌いなのよねえ」
呆れと諦めを孕んだ声だった。息をついて、B子はシャープペンシルをぎゅっと握り、えい、と軽く呟きながら参考書に突き刺す真似をした。それを見て、D音はふふ、と笑いを漏らす。
「でもB子ちゃん、勉強得意じゃないですか」
B子の参考書を覗き込みながらこう言うと、B子は至極あっさりと、どうでもよさそうに軽く手首を振った。
「好きでやってる訳じゃないわよ、あんなの面倒くさいだけじゃない。しょうがないからやってるだけよ」
溜め息をつきながら、B子は机に突っ伏す。D音の正面先程より近くに、B子の髪があった。D音はそれに触れようと手を伸ばしかけて、途中でそれを止めて降ろして、スカートをぎゅっと握りしめた。
「それでいい成績取れるんだから、B子ちゃんはやっぱりすごいんですね」
精一杯誉めたつもりだったのに、B子の返事は素っ気ない。
でもそんなところも、私B子ちゃん好きだな
あ。
「あんただってやればできるわよ。頭良さそうだもん、D音」
そう言ってB子は顔を上げた。ずっと机に突っ伏していたせいか、少し髪が乱れている。せっかく綺麗な髪なのに勿体ない。でも髪が乱れてても、やっぱりB子ちゃんは可愛いんだ。
「髪、乱れてますよ」
そう言って手を伸ばし、D音はB子の髪を整えた。最後にあの赤いリボンをきゅっと結び直した。ああありがとう、なんて当たり障りない返事だったけれど。
「私、B子ちゃんのこと大好きですよ」
そう言うとB子は少し驚いて、しばらくD音の瞳を見つめる。それでもD音の意思を図りかねるようで、諦めたのかB子は目をそらした。
「本当ですよ?」
おどけるように言って、D音は本を閉じた。ぱたり、と軽い音が響いて、そしてD音はさっきB子の髪に触れた指先を見つめた。そこに友情なんて物は無くて、ただ歪んだ背徳的な恋心だけがあった。そんなことを知ってか知らずか、D音は微笑む。
「でも私、あんたのこと嫌いじゃないわよ」
B子は不敵にそう言って笑った。
だったら、私にキスしてくれますか。
そんなことは訊ける訳がなかった。彼女と自分の好きのベクトルが違うだなんて事は、もうとっくに分かりきっていたのだから。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ