小説

□物じゃなくて者に意味がある
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薄暗い教室。ここには二人しか居なかった。隣り合って座っている。C太はふとA弥の横顔を見つめてみた。退屈そうに暇を持て余しているようだった。時折、前髪がぱさりと揺れた。
さらさらと指の間を通り抜けるA弥の髪が好きだった。
オレ、A弥の髪が好きだなあ。
そう告げると、A弥は自分の髪の間に指を差し入れて、ふうん、と興味無さげに呟いた。
「僕より髪の毛柔らかい人、いっぱいいるでしょ」
C太は相変わらず微笑みながらA弥を見ている。なにか伝えたいけれど言葉が思い付かない、そんな様子でしばらく考える。少しの沈黙があって、C太が口を開く。
「確かに、B子とかD音とかのほうが髪は柔らかいかもね」
A弥は次の言葉を待つ。しかしそれはすぐには返ってこなかった。C太に目線を移してしばらくしてから、C太は再び言う。
「でもオレは、別に柔らかくなくたっていいんだよ。……多分、多分だけど、A弥の髪だから好きなんだと思うなあ」
C太は笑った。A弥はC太を見つめている。
「僕も、好きだよ」
「何が?」
C太がこう問うとA弥は少し黙った。C太が首を傾げたその時に、A弥は続けた。
「……C太が」
C太は幾ばくかだけ意表をつかれた様子だったが、すぐにそれは笑いに変わった。
「ありがとう。オレも、好きだよ」
A弥が。
言ってからC太はA弥の背後に立った。両手でA弥の髪を弄ぶ。やがてポケットからヘアゴムを取り出すと、まとめた髪をそれで縛った。
「見て、A弥のポニテ」
じゃーん、との効果音付きだったのに、A弥ははずしてよ、とつれない。
「なんでそんなの持ってんの」
「女子力高いから、オレ」
明日これで学校行こうよ、と冗談を言ったC太を、A弥は軽く睨んでうるさいと一蹴した。

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