小説

□キミとボク以外を遮断する壁
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雨が降っていた。
大粒の雨が曇天の空から降り注ぎ、木を、コンクリートを、ガラスを、人を、濡らした。
「A弥、濡れてない?」
「大丈夫。C太は?」
「オレも、大丈夫。狭いけど、我慢してね」
こうなるんだったらもうちょっと大きめの傘持ってくればよかったな、C太は苦笑する。それを聞いて、A弥は少し申し訳なさそうにごめん、と言った。C太の片方の肩は、少し傘からはみ出して濡れていた。A弥にそれを気付かれないように、細心の注意を払う。A弥が濡れることはできるならば避けたかった。
下校時間真っ只中の道は、少しばかりにぎやかだ。それに今日は皆傘を差しているから、いつも以上に狭い。普通に歩くのにも支障がでるほどだ。お陰でいつもの倍近くの時間を下校に費やしている。A弥と長い時間一緒にいられるのはまんざらでもないが、やはり雨も降っているし中々に骨が折れる。ふう、と息を一つついて、C太は前を見据えた。
A弥側にある腕を動かそうとしたところで、少しの違和感を覚えた。見ると、A弥がC太の袖をつかんでいる。そんな些細なことにも幸せを感じてしまう自分はもう駄目なのだろうな、と半ば呆れながら、それでもやはり嬉しかった。
雨の日もあまり悪くないかな。
A弥の指先の仕草一つで、価値観ががらりと変わる。それは他の誰でもなく、A弥だからこそだ。
C太は自分の外側にあるコンクリートの塀をちらりと見た。A弥、と軽く名前を呼ぶ。A弥が自分に意識を傾けた事を確認すると、回りから自分たち二人を隠すように、傘を傾けた。A弥が訝しむ。C太はにっこりと微笑むと、A弥の顔を引き寄せてそのままキスをした。A弥は抵抗してくるが力では負けない。顔を離して傘を戻すとA弥の顔は真っ赤だった。
「人、いっぱいいるでしょ……!」
C太を見上げながら睨み付けている。C太は悪びれずに返した。
「傘差してるから、ばれないよ」
ね、と笑顔でいたずらっぽく笑う。
「次やったら、僕他の人に傘入れてもらうからね」
「それは困るなあ」
そんな様子の一欠片も見えない。A弥はもう呆れ果てて諦めた。
ゆっくり歩いてA弥の家に着くまで、A弥はC太の袖をつかんだままだった。

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