Book【新選組 spin off】
□左之助の恋 弐
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「左之ぉ…、ちょ、ちょっと来てくれ」
(土方さん…?)
声は確かに土方さんのものだと思われるのだが、いつにない情けない声に俺は首を傾げながら、声のする方に向かった。
「土方さんともあろう人が、どこから声出してんだよ?」
そこで俺が見たのは、ガチガチに固まったおまさを前に完全にお手上げ、といった様子の土方さんの姿だった。
「何してんだ?あんたたち」
俺が問うと、土方さんがようやく息を吐いて言った。
「どうもこうもねぇよ。俺はただ熱い茶が飲みたいと思ってだな…」
俺はそれだけでことを察した。
「呼びつけたら固まっちまったってか」
「はぁ…」
土方さんが大きなため息をついた。
「いくら俺が鬼と呼ばれてたって、こんな小娘を取って食いやしねぇよなぁ」
賛同を求めるようにそんなことを言う土方さんがおかしくて俺は
「さぁて、それはどうだかな?」
と茶化してやる。
「おい、左之、そりゃないだろう!」
土方さんが本気で困っているようなので、怒らせないうちに俺はおまさを連れて部屋に戻った。
茶は中庭でふざけ合っていた平隊士に持っていかせた。
あとで土方さんが
『どうにもここの男連中が淹れた茶はがさつでいけねぇ。やっぱりおまさの淹れた茶はうまいんだよ。茶は京だね』
とぼやいていた、と俺は源さんから聞いた。