Book【新選組 spin off】

□武士と百姓
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「ちっくしょー!!やってらんねえぜ」


そんな悪態をつきながらひとり多摩川の川べりを歩いているのは、年の頃十になるかならぬかという土方歳三少年である。

別段何という事があったわけではない。この夏の暑さに辟易しているだけのことだ。


朝のうちに追い立てられるようにして手習いに行かされた帰り道、その手習いの稽古道具を手にぶらぶらと歩いている。

こんなに暑い日は、近所の仲間連中と川に入り、ひとしきり遊んでから帰るのが恒例となっていたが、今日はどうしたことかいつもの仲間がそろわず、かといって一人で川遊びをするのもむなしく思えて、歳三はムシャクシャする気持ちを持て余しながら歩いていた。


自分の思うようにならないいら立ちを抱えて歩いている歳三の耳に、蝉の声が痛いほどに突き刺さる。

「っるせーんだよっ!」

力任せに道端の木を蹴りつけ、歳三は足に走る痛みに思わず顔をしかめた。

「イタタタ…」

涙がジワリとうかびそうになり、歳三はぐっと歯をかみしめながら足の甲をさすった。
カリカリにささくれ立った小さな木の皮が甲に刺さっているのを見つけ、その細い指でつまみとる。

「ちっ、…ったく今日はついてないぜ」

女の子のように色の白い端正な顔つきをしているが、その口から出る言葉はとても上品だとは言えなかった。
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