Book 【新選組】
□時わたり Y
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光は沖田の後ろで待機するほかの隊士に混ざりながら、ガクガクと震えていた。
「おい、大丈夫か?」
となりの安藤が声をかけてきたが、沖田にじろりと睨まれて口をつぐんだ。
そうしている間にも追われた男達はすぐそこにまで迫ってきた。
前方に立ちはだかっているのが、沖田と光、それから数名の隊士のみだと知ると、男は手に持った刀を振りかざして突進してきた。
「早く抜きなさい!」
味方の沖田の声にさえ恐怖を感じる。
手も足もみっともないくらいにガタガタ震え、もう声も出ない。
そうしている間にも男は二人の目前まで迫る。
「ぅおおおお!!」
獣のような声を発し、斬りかかってくる男。
その血走った眼はとても同じ人間のものだとは思えないほどだった。
(怖い!!)
光が思わずしゃがみこみそうになった時、傍らの沖田が男に向かって走りこんだ。
「ここまでだ!覚悟しろっ!」
沖田の刀が男の腕を斬りつけ、鮮血が噴き出した。
血をだらだらと流しながら、男の目は光をとらえた。
恐怖に震え、腰の刀さえも取れない光が相手ならば、手負いの自分でもなんとかなると思ったのかもしれない。
光は男と目があった。
だが、男が光に襲い掛かるよりも早く、安藤が光の前に躍り出た。
「何やってんだ!ボーっとしてるなよ!」
安藤の声にハッと我に返る。
周囲を見渡せば、誰もが次々に現れる敵を相手に奮闘していた。
沖田や原田だけではない。ほかの隊士もそれぞれに敵を囲み、切り結んでいる。
この戦いの場で、光一人を気にかけていられるような者は一人もいないのだ。