Book 【新選組】
□時わたり Y
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『自分の身は自分で守るという意識を常に持つこと』
『死にたくなければ、ためらわず刀を抜きなさい』
昨夜沖田に言われた言葉がよみがえる。
「どぉりゃあああぁぁぁ!!」
先ほどとは比べ物にならないほどのすさまじいうなり声とともに男が一人の隊士の背に向けて刀を振りかざしたのが見えた。
(あれは!安藤さん!)
光の目の前の敵を倒した安藤はすでに別の敵と刀を交えていた。
「安藤さん、危ない!!」
光のその声に男が振り返った。
次の瞬間何を考えるまでもなく、悲鳴とともに光は腰の加州清光を抜き放ち、そのままの勢いで薙ぎ払った。
男の着ているものがザックリと切れ、その隙間から血が噴き出す。
まるでスローモーションのように見えたのに光はそれをよけることもできなかった。
光の顔に生暖かいものが降りかかり、それが冷えていくのがわかった。
剣道で身に付けたはずの間合いだとか気合いだとか、そんなこと一切関係なかった。
そんなやみくもに振り回しただけのような光の刀を通して、今までに一度だって感じたことのない嫌な感じが確かに光に伝わった。
一瞬動いた光の身体が、再び凍りついたように動かなくなった。
そんな光のすぐ横に、男はどさり、と音を立てて倒れ込んだ。
「大丈夫か!?篠崎、安藤!」
「馬鹿野郎!とどめもささずにボサッと突っ立ってんじゃねぇよ」
原田と、数人の隊士がすぐに来てその男を取り囲み、縄で縛りあげた。
気付けば、あれほど聞こえていた剣戟の音が止んでいた。