Book 【新選組】

□時わたり Y
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「・・・・・・」

手に残るこの感触が人を斬ったという感覚なのだろう。
初めて感じる感覚なのに、なぜだかそれが光にもよくわかった。

刀に残る血の跡が生々しく、光は吐きそうになったが口を手で押さえ、どうにかこらえた。

もう刀を持っている気力などなかった。光の刀がガシャンと音を立てて足元に落ちた。

「ありがとう。助かった」

安藤が頬についた返り血を袖で拭いながらそう言って、落ちた光の刀を拾い、血を同じように自分の袖で拭うと光の腰に残ったままの鞘を抜き、刀を納めた。

そしてそれを光の腰にしっかりと差しながら、

「お前のおかげで、何とか生き延びることができたみたいだ。お前に助けられたよ」

そう言って光に向けてにっこりと笑った。

その横で瞳に涙をため、ガクガクと膝から崩れ落ちそうになる光に、

「屯所に戻るまで我慢しなさい。復命を果たすまで任務は終わってないのですよ。気を抜かないで」

と沖田が言い、光の背中をバシッ!と音がするほどに叩いた。
光がわずかに頷くと沖田と原田は捕らえた男たちを屯所に連れ帰るように隊士に命じた。

後ろ手に縛られ、引っ立てられていく数人の男の中に光が斬りつけた男の姿を見つけ、斬り殺さずに済んだほんの少しの安堵感を感じながら、光はいつまでも手に残る恐怖感をぬぐうことができなかった。


屯所への帰り道、何度となく口に手を当て吐き気をこらえる光を見かねて、隊士の一人が原田にそれを伝えた。

「チッ!ったく、しょうがねぇなぁ」

原田はそう軽く舌打ちをして、沖田や隊士たちに先に帰っているようにと言い、するすると光のいる後ろの方に下がってきた。
そして光の肘をつかむと

「来い」

と言って列から離れた。


二人は隊からどんどん離れ、原田はそよそよと風の吹き渡る川べりへと出た。つかんだ光の肘はそのままに土手を下りていく。

「原田さん?」

今までにあまり原田と話すことのなかった光は、いきなりのこの原田の行動に驚いていた。

「そういちいち怯えんな。いいから黙ってついて来いって」

土手を下り、生い茂る草の中に何のためらいもなく入っていく。光も手を引っ張られてついて行かざるを得ない。

「このへんでいいか」

原田があたりを見回していった。

「そんな青い顔してつらかったろ?出すもん出しちまえ、楽になるから」

思いがけない優しい声に光の涙腺が思わず緩む。

「初めての時ってのは誰でも、多かれ少なかれそういうもんだ」

ほっと気を緩めた光が草むらに蹲って吐き続けるその傍らに立ち、原田は突然

「総司のこと、どう思ってる?」

と聞いた。

「どうって?」

光は涙目になりながら聞き返す。

「総司はよ、お前の教育係になってからというもの、やけに張り切ってんだ。あんなに一生懸命に稽古してる姿を見たのは久しぶりだしな」

光は返事ができなかったが、原田はお構いなしに続けた。

「いっぺん、お前に一本取られただろ。あれからだよ、総司が夜ひとりで稽古するようになったのは。よっぽど悔しかったんだろうな。」
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