Book 【新選組】

□時わたり Z
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少し前から、隊内に長州の間者がいるという噂があった。

そのうわさがうわさうわさでなくなってきているのを感じる出来事が、何度か続いたある日、ふと思い出したように永倉が声を上げた。

「あ!そういえば、今日荒木田たちに一力に誘われてんだった。どうすっかなぁ」
「お前を襲おうって腹じゃねぇのか?やめとけよ」

原田が半ば茶化すように言った。

「そうだとしてもよぉ、一力だぜ?めったに行けねぇもんなぁ。おごりだっていうから行く気満々でいたんだが・・・」
「だったら、中村あたりを連れて行くか」

それを聞いて土方が言った。

「あいつは酒にも強いし、腕も立つ。適当な理由をつけて見張りにつけよう。荒木田たちがおかしな動きをしやがったら、間者だっていう動かぬ証拠になるだろうし」
「おう、土方さん。行ってもいいのかい?そりゃうれしいねぇ。了解。じゃ、そうさせてもらうかな」

原田が心配するのをよそに永倉は、楽しそうにつぶやいた。

「だからって、油断するんじゃねぇぞ。酔いつぶれて無様な格好さらしてみろ。幹部だろうが何だろうが、その場で腹斬らせてやる」
「いやいやいや、俺だって寝首をかかれちゃシャレにならねぇからな。充分心してかかるさ」
「ああ、そうしてくれ」

土方は沖田、藤堂、井上、島田に一力を見張るように言いつける。

「近藤さん、それでいいよな?」
「ああ、任せるよ」

(相変わらず頭の回転の速いことだ)

と近藤は舌を巻いた。


「すまないが、皆、退室してくれ」

ひとしきり話の終わったところで、近藤がそう切り出した。
一同はちょっと頷いて各自、その場を立つ。
最後に土方が立つと、近藤は土方には残るように言った。それを聞いて土方は再び腰を下ろした。

他の隊士たちが十分に部屋から離れたのを見計らったうえで、近藤が

「なぁ、トシ」

とおもむろに口を開いた。

「悪いな、いつもお前に任せきりの形になってしまって」
「何言ってんだ、近藤さんらしくない」

土方が目を見張る。
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