Book【新選組 spin off】
□想い
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これは、僕が光と出会うほんの少し前の話だ。
佐々木愛次郎とその想い人あぐりが殺されているのが見つかったのは、文久3年の8月2日のこと。
二人ともまだ若く、年上の佐々木さんでさえまだ19歳だったんだ・・・・。
「あぁ、悪い総司。佐々木を呼んできてくれないか?」
僕が土方さんに呼ばれて部屋に行くと、当の土方さんは文机に向かったまま僕の顔も見ないでそう言った。
「僕を呼んだのはそのため?」
僕はちょっとムッときて、無愛想な土方さんの背中に向かってそんなことを言った。
「いや、お前との話の前にそっちを片付けておこうと思ってな」
「ふぅーん。まぁいいですけど。佐々木さんって佐々木愛次郎さんだよね?」
「ああ、頼む」
「はいはい」
僕がついそんなふうに投げやりな返事をすると、土方さんは
「『はい』は一遍でいい!」
とまるで子供に言うみたいなことを言ってきた。
まぁ僕もたいがい子供じみたことを言ってしまったな、という自覚はあったので、
「はーい」
とおとなしく返事をし直して部屋を出る。
出るときにふと思いついて、
「呼びに行くのはいいですけど、戻ってくるまでにその仏頂面、直しておいてくださいよ」
と言ってやった。
「は?」
「ほら、その顔!こーんなに目を吊り上げちゃってさ!」
僕はそう言って両手で自分の目じりを上げて見せた。
「バカ言ってねぇで、早く呼んで来い」
「あははは!!」
それ以上土方さんの機嫌が悪くならないうちに僕は部屋を飛び出して、佐々木さんがいるであろう平隊士たちの大部屋に向かう。