Book【新選組 spin off】

□すれ違う心
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廊下をドタドタと乱暴に歩く音がする。こんな歩き方ができるのはここには土方さんしかいない。
土方さんは、ほかの人がこんなふうに足音を立てて歩いたら、「行儀が悪い!」と言って叱るのに、自分はお構いなしなんだ。


あぁ、でも。

嫌な予感がする。
土方さんがこんな歩き方をするのは、たいていよくないことが起きた時だから。

どうか僕の部屋の前は素通りしてくれますように・・・。


「総司!起きてるか!!」

スパーーーン!と音がするほど勢いよく僕の部屋の襖を開けた土方さんの顔は、今が非常事態であることを物語っている。
僕は嫌な予感が当たって、思わずこめかみを押さえた。

「なんだ、総司。また具合が悪いのか?」
「いえ、そうじゃありませんよ。体調は万全です。それより土方さんこそ、何かあったんですか?」
「ああ。これを見てくれ」

土方さんが一通の書簡を、僕に差し出した。
宛名は書かれていない。

「僕が見てもいいの?」
「いいから出してる」

土方さんの手から僕の手に、書簡が移る。僕はそれを広げて読んだ。

「ど・・・、どういうこと・・・?」

そう土方さんに問う僕の声は震えていたと思う。

「どうもこうもねぇよ。そこに書いてある通りだ」

土方さんは僕から目をそらした。

「どうして・・・」

僕はそれ以上、何も言えなくなった。僕の前で土方さんの握りしめた拳が震えている。
やがて、土方さんは僕と目を合わせないままこう言った。

「総司、お前が山南さんを追え」
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