Book【新選組 spin off】
□誠
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そして、御陵衛士の残党に肩を撃たれ重傷を負った近藤勇と、労咳で隊務につけない沖田総司は、山崎 烝に付き添われて大坂城に入った。
山崎の『新選組の医師』としての任務はこれが最後になった・・・。
年が明けて慶応4年1月3日・・・。
鳥羽伏見開戦の日、伏美奉行所に陣を構えた新選組は繰り返し薩軍陣地へ斬り込みをかけた。
が、数ではこちらが勝っているものの、装備に勝る敵の防御線を突破することができず、薩軍の集中砲撃を受ける。
大砲のすさまじい音と衝撃が奉行所の建物を揺るがす。天井や梁が、いたるところでミシミシと音を立てては崩れ落ちてくる。
運の悪いことに、ここは周りを小高い丘に囲まれ、そこから大砲を撃たれればもう防ぎようがなかった。
このころは肩を撃たれ療養中の近藤に代わって、土方が陣頭指揮を執っていた。
「土方さん、ここで手をこまねいていたってどうにもならねぇ。オレが白兵戦に持っていく。斬り込んでいく許可をくれ。」
永倉が土方にそう申し出た。
「勝算は?」
「ある!・・・と言いたいところだが、正直わからねぇ。だが、やるだけやらせちゃもらえねぇか?」
「俺達十番組も援護するぜ!」
原田の声も上がった。
土方は少しの間何かを考えていたようだったが、やがて決意したように顔を上げるときっぱりと命を下した。
「よし、斬り込め!」
病気で療養している沖田の代わりに、永倉が一手に率いることになった一番隊と二番隊、それから原田左之助率いる十番隊の隊士たちが奉行所の土塀を乗り越えて薩長軍が布陣する御香宮に斬り込んだ。
だが、この新選組の白兵戦。
一時は薩長軍をかなりのところまで追いつめたものの、薩長軍の放った砲火が民家に焼け移り、あたり一面が火の海となったためそれ以上は進むことができなくなってしまった。
さんざんな思いで戻って来た永倉新八が疲労困憊だったことに加え、装備の重さで塀を越えられないでいると、島田は
「永倉さん、これにつかまってください!」
と言って上から鉄砲を差し出した。
「おお、ありがとよ。」
永倉がそれにつかまると島田は永倉を装備ごと引き上げた。
常々、身体が大きく怪力の持ち主だと思ってはいたがこれほどだとは誰も思ってはおらず、それを聞いた者たちはその強力ぶりに舌を巻いた。