短編

□雪の日
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「うわー!すごい雪!!」


四郎兵衛はドサッと何かが落ちる音に目を覚ました。
部屋を出るとそこはあたり一面の銀世界。
キラキラと綺麗に輝く雪に誘われ、四郎兵衛は急いで制服に着替え、雪に飛び込んだ。


「ひゃあ!冷たい!」


今日が休みで良かった!
そう思いながらふわふわしている雪に転がっていると、他の二年生も出てきた。


「うわ!四郎兵衛寒くないのか?」
「大丈夫だよー!」


すでに制服に着替えている三人に近寄ると四郎兵衛は満面の笑みを浮かべた。


「左近も三次郎も久作も一緒に遊ぼうよ!」
「えぇー」
「やだよ。冷たいし」
「そうそう」


口では文句をいいながらも、まだ二年生である三人。
一年生の前では先輩ぶりたくてもまだまだ遊びたい子供なのだ。
断る理由もなく四郎兵衛のように雪に飛び込む。


「うわっ!つめてっ!」
「それにしても積もったな」
「えいっ!」
「四郎兵衛!冷たい!」
「あはははは!っぷ」
「あはは!どうだ!」


雪の掛け合いから雪合戦をはじめ、四人は朝食をとるのも忘れて笑いあった。
そのことに気がついたのは用具委員長である食満留三郎が二年生の長屋の前に来たときだった。


「やっぱりな」


思わず笑みをもらし、呟いた留三郎に真っ先に気がついたのは四郎兵衛だった。
は組という性格からか、人懐っこい四郎兵衛は留三郎を見つけると声をかけた。


「あ!食満先輩!」


よっ!と片手をあげて此方に向ってくる留三郎に三人はぺこりと頭を下げた。
三人の耳が赤く染まっているのは寒いからだけではないだろう。


「おはようございます!」
「雪かきですか?」
「んー……。そうっちゃそうなんだが」


にぃっと笑い、留三郎は片手に持っていた盆の中身を見せた。
そこにはたくさんのおにぎり。
それを見た途端朝食を食べていないことに気づき、三人のお腹がぐぅとなった。
それに笑いながら留三郎は二年生を縁側に座らせ、おにぎりを持たせた。


「井戸の周りとかよく使うところを雪かきして食堂に行ったらな、
おばちゃんがまだ二年生が来てないって言ってたんだ。
で、食堂を使うのが俺とお前らで最後だったから、お前たちのをおにぎりにしてもらって持ってきたんだ」


食堂に行く前にお前らの笑い声が聞こえたから遊んでんじゃねーかなって思ってな。
それに続けられた言葉に再び三人の耳が赤くなった。
四郎兵衛だけは変わらない笑顔だが。
それに気がついた留三郎はもう一度言葉を続ける。


「でも他の奴らには聞こえてないと思うぜ。
他の長屋前どんなになってんのか雪かきの様子見に行ったんだが、」


五年も雪合戦してただろ。
四年もなんだかんだで楽しそうだったし。
三年も雪合戦。あぁ雪だるまもあったなぁ。
一年はなんかいろいろしてたなぁ。


くすくすと笑いながら言う留三郎に四郎兵衛は首を傾げた。
こんな大雪で自分の所属している体育委員会の委員長である七松小平太が黙っているはずがない。
四郎兵衛はその質問をすべく、口の中にあるおにぎりを飲み込んだ。
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