短編

□三郎くんと三治郎くん
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暇だから、と同級生を探したが委員会の仕事やらお使いやらで誰も捕まらない。
特に急ぎの用事もないしどうしようか、と考えていた私の目に入ったある人。
その人物を見て私はほくそ笑み、気配を消した。
そして、その人物の後ろから近づく。
と、向こうを向いていたはずのその人物から声が発せられた。


「なんだ?鉢屋」
「……っ。えー?わかりましたか?」
「まぁ、仮にも最上級生だからな」


私の言葉にその人は振り返り、にやりと笑う。
驚かそうとしていたのに私が驚いてしまったでは無いか。
思わず口を曲げた私に笑顔になったその人ーー食満先輩は私の頭に手を伸ばす。
そのままわしゃわしゃと下級生にするように頭を撫でられた。
思わず顏が赤くなる。
その様子に再び食満先輩は笑うと、さっきまで取り掛かっていた作業に戻る。


「……大変そうですね」
「まあな」
「頑張ってくださーい」
「……手伝いますか?とかはねぇのな」
「それは用具委員会の仕事ですから」
「うわひでぇ」


なんたかんだと相手をしてくれる後輩好きの先輩に思わず私も笑顔になる。
とそこにパタパタと一年生特有の足音をたてて一人近づいてきた。


「け、ま、せんぱーい!」


あのにこにこ顏はカラクリコンビの片割れの一年は組夢前三治郎。


「お、夢前。どうした?」
「この前頼んでた歯車、出来ましたか?」
「あ、あー……忘れてた」
「えー?」


そう食満先輩が言うとぷくっと頬を膨らませる夢前。
私の後輩はこんな顏しないから何か珍しい。


「あ、じゃあちょっと待ってろ」
「はい?」
「今作ってやる」
「本当ですか!?」
「おう。後削るだけだからな」


……歯車ってそんな簡単に作れるものなのか?
今の会話に疑問を感じた私は食満先輩の手元を覗いた。


「へ?」
「なんだ鉢屋」
「歯車作るんですよね?」
「ん」
「それ小さくないですか?」
「まぁな」


食満先輩の手元には小さな木くず。
私にはどう頑張っても歯車なんて作ることができないように見える。
……そんな私の思いを否定するように食満先輩はざかざかと削りだした。
その手つきをキラキラとした瞳で見つめる夢前につられ思わず私もその手つきに見とれてしまう。
とふいに食満先輩が口を開いた。


「夢前、お前歯車作れるだろ?」
「そうなんですけど、これくらい小さくなるとどうしても……。
ところで、鉢屋せんぱい。なんでここにいるんですか?」
「暇だったから」
「よし、三治郎。鉢屋の相手してやれ」
「私が相手されるんですか」
「そうだろ?」


ふいにくいっと袖をひかれ目を落とすと目をキラキラさせた夢前。


「鉢屋せんぱい!ぼくに変装できますか?」


その問いに答えるために私はくるりと後ろを向いた。
そしてもう一度前を向く。


「一年は組生物委員会夢前三治郎でーす」
「すごい!声もそっくりです!」


そんな反応されると照れてしまうではないか。


「せんぱい、食満せんぱいにもなれますか?」
「もちろん」


これではさっき食満先輩が言っていた通りではないか。
私が夢前に相手されているみたいだ。
そう思いつつも食満先輩の顔を纏う。


「六年は組用具委員長食満留三郎だ!」
「うわー!鉢屋せんぱいすごいですね!」


そう言って食満先輩と私を見比べていた夢前の目が遠くを捉えた。
後ろを振り向くと此方に向かっている小さい青色の制服。
にやりと笑った私に夢前は首を傾げた。
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