短編

□四月馬鹿の日
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今日は四月馬鹿の日。
僕の同室の鉢屋三郎はそれはそれは楽しそうにいろいろな人を騙している。
そして、困った皆は僕のところにくるんだよね。


「雷蔵〜」


そしてまた一人僕のところにやってきた。


「聞いてくれよ。三郎が……」


一体どれだけの人数に嘘をついているのか。
正直、三郎の尻拭いも面倒になってきたなぁ。
かと言ってしないわけにもいかないし。
うーん……。


「おーい、雷蔵?」


そうだ!僕も騙せばいいんじゃないか?
そしたら僕も困らないし、三郎もちょっとは僕が困ってること分かってくれるかも。
そうだよ。そうしよう。


「雷蔵?」
「あぁ、ごめん八左ヱ門。で、なんだっけ?」
「だから、三郎が」
「まぁ、許してやってよ。雷蔵だってたまには息抜きしたいだろうし」
「は?」
「え?……あ」


聞き返した八左ヱ門にやばい、という顔をしてみせる。


「雷蔵って、え?え?三郎が、え?」


面白いくらいに反応を返す八左ヱ門に内心謝りながらも三郎の真似をして口を開く。
そう。僕が考えた嘘は……。


「どういうことだよ?」
「……あー。まぁ、八左ヱ門ならいいか」
「だから何がだよ」
「実は変装しているのが私ではなく雷蔵だ、ということだ」
「……は?」


再び固まった八左ヱ門。
そう。僕が考えた嘘は変装しているのが僕だ、ということ。


「ようするに、それは、今俺の前にいるのが三郎、嘘をついているのが雷蔵、ということか?」
「だからそうだと言っているだろう」
「……いつもいたずらしているのも雷蔵なのか?」
「それは私だ」
「……いつもいたずらしているのは三郎。
だけど変装しているのは雷蔵……?」


まだ混乱している八左ヱ門に僕の顔を差し出す。


「ほら、顔が取れないだろう?」


恐る恐る伸ばされた手が僕の首と顔の境目あたりを探る。
だけど、変装の面が剥がれることはない。
だって不破雷蔵僕本人の顔だもの。


「……三郎、本当のお前はどっちだ?」
「さぁ。どちらだろうね」


そしてにやりと三郎がよくする笑みを浮かべる。
双忍と呼ばれているんだ。僕だって三郎の真似をすることはできる。


「あ、雷蔵!」
「三郎」


外からにこにこしながら三郎が駆けてきた。
一体何人騙したのか。
いい笑顔だ。


「で、なんでそこで八左ヱ門は固まっているんだ」
「三郎の嘘に騙されたからだよね?」
「はぁ?今日は四月馬鹿だろ?騙される方が悪い」
「でも三郎は毎日でしょ」


そして僕は八左ヱ門の耳元に口を近づけた。


「八左ヱ門、さっきのことは内緒だよ?」


そう囁いた途端に八左ヱ門はこくこく頷いて走り去ってしまった。


「……雷蔵、どんな嘘をついたんだ?」
「ふふ、僕が本当は鉢屋三郎で君が本当は僕だ、って嘘」
「雷蔵、君も物好きだねぇ」
「お前に言われたくないよ」
「そりゃそうだ」
「さて、八左ヱ門にいつ本当のことを言おうか」
「ま、当分そのままでも問題なさそうだが」
「うーん、でも早く言った方がいいかなぁ。いやでも……」
「全くしょうがないなぁ、雷蔵は」



* * *



あ、そこで聞いていた君。
どっちが本当か信じるのは君次第。
でも、今日が四月馬鹿の日だということを忘れないで欲しい。

そして、僕は一体どっちでしょう。
貴方はどちらか見破ることができますか?
 

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