短編
□その送り主は
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忍術学園。
忍術を学ぶ学校である。
しかし、学ぶのは忍術だけではない。
そのうちの一つに南蛮文化というものがある。
「くりすますってなんですかぁ?」
「さんたくろうす?」
師走の半ば。
この質問は各委員で行われる。
先輩から聞いたのかそれとも図書室で読んだ書物か。
その質問に先輩は笑顔で答える。
何故か。それは忍術学園にもサンタクロースがくるからである。
学園長の思いつきで毎年行われるクリスマス会。
そこで先生方が赤い帽子をかぶってプレゼントをくれるのだ。
「とはいえ、私たちも渡さないわけには行かないだろう?」
夜。
五年生は六年生によって六年い組の部屋に集められていた。
「そう……ですね」
「で、私たちが集められた理由ですが……」
「通常なら委員会の後輩に渡すだろう?」
「ところが五、六年生だと問題がある」
「あぁ、生物と用具、学級、図書、火薬ですね」
「生物、用具は一人で五人に渡さなくてはいけない。しかし図書は二人で三人に、私たち学級と火薬はは二人で二人に渡せばよいと。人数にばらつきがありますね」
いつもふざけてる勘右衛門と三郎だが流石は学級委員会。
すぐに把握出来ることに六年生は内心で感心する。
「あぁ。そこで人数調節が必要だと思ってな」
でも、と言葉を挟んだのは兵助だ。
「私だったら他の委員会の先輩から貰うよりも自分の委員会の先輩から貰いたいと思います」
「そこなんだ!」
「どこなんだ?」
「……小平太、違う」
留三郎の言葉に一年生のお約束とも言えるボケを繰り出す小平太。
しかしそこには長次がしっかりと突っ込む。
悲しいことに、慣れている六年生はそんな三人を無視して話を進める。
「だから、どうしようかなって。みんなでお金を出し合って人数に合わせて分けるのが僕は一番いいと思うんだけど……」
「あ、それがいいと思います!」
伊作の提案にはいはーいと手をあげたのは八左ヱ門だ。
迷い癖のある雷蔵も頷いている。
勘定なら任せろと、会計委員会委員長の文次郎も賛成しているようだ。
「異論はないようだな。では早速とりかかろうではないか」
話をまとめたのは勿論仙蔵だ。
その日から数日間五、六年生は下級生の欲しいものや好きなものを調べ、手に入れるという密かな任務を遂行したのである。
そして、いよいよ当日を迎えた。
あたりが静まり返った夜に再び五、六年生は六年い組の部屋に集合していた。
「……あの今更なんですが」
「なんだ竹谷」
「これ、委員会ごとにプレゼント買った意味無かったんじゃないかって思ってます……」
それは五、六年生全員が思っていたこと。
なぜならサンタクロースは夜中に枕元にプレゼントを置くのだから。
そしてプロ忍に近い五、六年生にとって気配を消すのはお手の物。
気づかれない自信があった。
「う……」
「ま、まぁ買っちゃったものは仕方ないもんね」
「まぁ、細かいことは気にするな!」
結局はプレゼントを買って配る、ということなのだから、という言葉に頷く。
「……よし、では健闘を祈る!」
文次郎の掛け声で後輩へのプレゼントを持ち、気配を消して動き出す五、六年生。
プロ忍に近い十一人の力を持ってすれば配り終えるのはすぐだった。
「みんなお疲れ!」
「……伊作、お前の不運で俺がどんなに大変だったか!」
「すまない留三郎」
「いや、絶対善法寺先輩悪いと思ってない……」
「尾浜、今なんか言った?」
「いえ!何も!」
「お前らうるさいぞ!」
「小平太が一番うるせぇよ」
「あのー……」
六年生のぽんぽん弾む会話に恐る恐る言葉を挟んだのは雷蔵だ。
それに答えたのは同じ委員会の長次。
「……すまない。五年生は自室に帰ってもらってかまわない。付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ!楽しかったです!では失礼します」
もそもそと話す長次の声を聞き取れたのは同じ委員会の雷蔵だけのようで五年生は首を傾げていた。
雷蔵が伝えたことにより、言われたことを理解した五年生はぺこりと頭を下げ六年い組の部屋を後にする。
ある程度五年生が離れただろうところでぴたりと六年生は話をやめ、一つの円になった。
「後はあいつらがいつ寝るかだな」
「寝たばかりじゃあ流石に僕たちでも気配気づかれちゃうよね」
「しばらく待つか!」
六年生の相談。
それは自分たちの後輩である五年生にもプレゼントを届けることだった。
次の日、学園長により開かれたクリスマスパーティで一年生は嬉しそうに自分たちの委員会の先輩にプレゼントのことを報告している。
四年生は誰が用意してくれたか気づいている様子でお礼を言っている。
ところが首を傾げている生徒が数名。
それは五年生が委員会にいる一年生。
「竹谷せんぱいがいない……」
「久々知せんぱいも」
「鉢屋せんぱい、尾浜せんぱいも」
「あれ、不破せんぱいもいないや」
勿論六年生も首を傾げていた。
昨夜プレゼントを置いた時にはいたはずだ。
と、考えていたら五年生が続々と姿を現した。
「すみませーん、遅くなりました!」
「あ、竹谷せんぱい!」
「おう、ごめんなー!」
五年生が一気に帰って来たことで、もしかしたら学園長の思いつきかと生徒全員が考えた。
このパーティの主催者は学園長なのだ。
あり得ない話ではない。
しかし、その考えは次に入って来た人物によって一旦放置されることとなる。
「みんなー、楽しんでるか?」
「あー、土井先生!」
「山田先生も!」
「こらこら、わしはサンタクロースだ」
南蛮の絵本で見たとおり、赤い帽子に赤い服、白い髭をつけて大きな袋を背負ってきた先生たちの登場で一年生は喜ぶ。
「ほら、順番に並べー!」
何が貰えるのかとわくわくして並ぶ一年生の後ろに二年生、三年生、と学年順に並んでいく。
「先生、開けていいですかぁ?」
「勿論いいぞ」
「やったぁ!」
「あ、襟巻きと手袋だ!」
「おれ赤!」
「白だった!」
「……あったかーい」
嬉しそうな笑顔はどんどんと広がっていく。
そしてとうとう六年生の番になる。
「お前たちにはこれと、これだ」
「え、二つですか?」
「まぁ、一つは私たちからなのだがもう一つは……」
意味ありげに笑った土井先生に首を傾げる。
他の先生も同じだ。
一体何だというのか。
ふと、背後に何か気配を感じ六年生は全員振り返る。
そこに居たのは五年生。
「あの、プレゼントありがとうございます!」
真っ先に八左ヱ門が頭を下げた。
次々と他の五年生もお礼を述べる。
……ということは。
「このプレゼントお前たちか」
「もしかしてさっきいなかったのは」
「……すみません。用意していなかったんです」
申し訳なさそうに謝る五年生。
しかし、予想もしていなかったプレゼントに六年生の顔は緩む。
「ありがとな!」
「すっげぇ嬉しい!」
「ありがとう!」
そしてそのまま五年生の頭を撫でる。
一つ下とはいえ彼らのかわいい後輩に変わりはないのだ。
そんな光景を微笑ましく見ていた先生たちがまとめて五、六年生の頭をがしがしと撫でる。
上級生になって撫でられるのはいつぶりだろうか。
少し照れくさい。
赤い顔のまま十一人は顔を見合わせる。
顔を少し赤くした五、六年生が下級生に見つかるまで後少しである。