短編

□暇つぶし
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「あー……暇だ」


部屋の中心で寝っころがりぽつんと呟く。
自分一人しかいない部屋ではそれに返す者も無い。
外は連日の大雨で委員会も休みだ。
これとしてすることもなく暇な小平太は一つ大きなため息をついた。


「長次、いるか?」


暇を持て余していた小平太の耳に届いたのは凛とした声。
その声にむくりと上半身を起こす。


「長次はいないぞ!委員会で不破と町へ行った」
「そうか」
「仙蔵!今暇か?」
「忙しくはない」


その答えににんまりと笑った小平太は戸へと近づき勢いよく開けた。
小平太からでたその言葉に仙蔵は目を見張った後、優しく細めた。


「いいだろう」


一人増えた部屋でぽつりと言葉を零せば返ってくることに小平太は笑みを浮かべる。


「それにしてもお前が静かに過ごすなんてな。天変地異の前触れか?」
「仙蔵、ひどいぞ。私だって静かにするさ」
「そうだったか?」


なんてことも無い話がなんとなく心地がいい。
そうぼんやりと思いながら小平太は外に目を向ける。
仙蔵が入ってきたときに開け放した戸から見える外は相変わらずの雨。
その雨音に混じり廊下を歩く音が聞こえる。


「きっと伊作だな」
「そうだな」


姿が見える前に予想をし、二人はその足音の持ち主を待つ。
戸の陰から現れたのは優しい栗色の髪の毛の持ち主。


「やっぱり当たった」
「え?」


小平太の声に伊作は振り返る。


「あれ?小平太に仙蔵?」


何してるの?
という疑問に小平太と仙蔵は口を揃えて返す。
その言葉に口元を緩め伊作も部屋に足を踏み入れた。


ぽつりぽつりと言葉を交わしながら過ぎてゆくのんびりとした時間。
小平太は再び部屋の中心に寝っころがった。


「ちょっと小平太、狭いよ」
「お前は身体も大きいんだから少しは考えてくれ」


苦笑混じりでそう言われ、小平太はじりじりと仰向けのまま動き出す。


「小平太、なんでそのまま移動するのさ」
「んー、なんとなく?」
「小平太、落ちるなよ」
「はーい」


笑いながら言う伊作と、呆れながらも注意をしてくれた仙蔵にそれぞれ返し、小平太はそのまま廊下の方へと移動する。
上半身が廊下まで出たところで小平太の目に二人の人物が映る。
小平太を覗き込むようにしていた二人は犬猿の仲と呼ばれている文次郎と留三郎だった。


「お、文次郎に留三郎!」
「お前、何してるんだ?」
「んー、移動?」
「なんだそりゃ」


問われたことにそのまま返せば首を傾げられる。
小平太は留三郎が伸ばして来た手を掴み身体を起こした。
二人が来たことで少し騒がしくなった廊下に気がついた伊作が声をかける。


「あ、留三郎!」
「え?伊作?それに仙蔵も?」
「わかった、お前たちが喧嘩をしていないから雨なのか」
「いや、もっと前から降っていただろう」


仙蔵の言葉に苦笑しながらそう返した文次郎はそれで、と続ける。


「お前らはここで何してるんだ?」


先程と同じその問いに今度は三人そろって答える。
返ってきた答えに文次郎と留三郎は顔を見合わせ、部屋へと踏み入れた。



* * *



「中在家先輩?」


委員会の用事を終えた長次は他の本を持っている雷蔵とともに自室へ戻った。
しかし、その部屋の前で首を傾げた。
小平太しかいないはずの自室から多くの気配がするのだ。
同級生かとも考えたがそれにしては静かすぎる。
そんな長次に今度は雷蔵が首を傾げる。


「……いや。不破、その本を渡してくれ。もう大丈夫だ」
「だめですよ!先輩も他に本を持っていますから。僕が中まで持っていきます」


笑顔でしかしきっぱりと言われてしまえば長次も頷くしかない。
自室の気配に気を配りながらも長次は戸を開けた。
そしてあっけにとられる。


「あれ?先輩方?」


止まった長次の後ろからひょっこりと顔を出し、雷蔵は驚く。
部屋には五人の六年生。
そして珍しいことに全員が寝ている。


「先輩方が昼寝なんて珍しいですね」
「……あぁ。不破、ありがとう。ここで大丈夫だ」
「はい、わかりました。それでは失礼します」


ぺこりと頭をさげ、部屋を後にした雷蔵を見送ってから長次はくすりと笑う。
いつもは騒がしい同級生たちがそろって寝ているなんて珍しいことだ。


「……土産は後でいいか」


そう呟き、長次はかろうじて空いていた小平太の隣へと転がる。


きっと不破は六年生がそろって昼寝をしていたと五年生に伝えるだろう。
学園中に広まるのも時間の問題だな。
なんと噂されるだろうか。
明日は槍が降るとでも言われそうだ。

ぼんやりと考えていた長次はひとつあくびをする。
のんびりとした空気に雨の音。
だんだんと落ちてきた瞼に抗う理由も無く長次は眠りについた。

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