短編

□三郎くんと三治郎くん
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「二年い組池田三郎次です。食満先輩ちょっといいですか?」
「おう。どうした?池田」
「あの、この手裏剣なのですが……あれ?どうして先輩五年生の制服を着ていらっしゃるのですか?」
「ちょっとな」
「はぁ……。それで、この手裏剣なのですが、」
「あははは!」
「なんだよ、三治郎」
「三郎次せんぱい、その食満せんぱい鉢屋せんぱいですよぉ」


へ?と言って私の顔をまじまじと見つめてくる。
私だと言うことを証明するために再び後ろを向き、今度は池田の顔を纏う。


「二年い組火薬委員会池田三郎次です!」
「な、何やってるんですか!鉢屋せんぱい!」


おや、これまた珍しい反応。
つんつんと頬をつつくとそっぽを向かれてしまった。


「鉢屋、それぐらいにしといてやれよー」
「はーい」
「夢前、こんなんでどうだ?」


私にしては珍しく素直に返事をして普段借りている雷蔵の顔を纏う。
ようやく本物の食満先輩がいることに気がついたのか、池田は慌てて手裏剣を出した。


「食満先輩、今日の実技で使った手裏剣自分のと間違って持って帰ってしまったので返しに来ました」
「あぁ。今日の貸し出し二年生だったな。わざわざありがとうな」
「いや、ぼくが間違っていたので」
「食満せんぱい、大丈夫です!ありがとうございました!」
「そうか」
「では、ぼくは失礼します」
「あ、待て待て」


ぺこりと頭を下げた池田を呼び止め、食満先輩は何やら木くずを削り始めた。


「よし。ほら三郎次。これ持ってけ」
「ぼくは大丈夫です!」
「いいから貰っとけって。よく飛ぶぞ」


そう言って食満先輩が池田に渡したのは竹とんぼ。
それを見て夢前も声をあげた。


「食満せんぱい!ぼくにも作って下さい!」
「お、いいぞ!ちょっと待ってな」
「はーい!」


再びざかざかと削り始め、あっという間にもう一つ竹とんぼが完成した。


「ほら」
「ありがとうございます!
歯車もありがとうございました!」


勢いよく頭を下げ、両手に歯車と竹とんぼを握りしめ、駆けて行った夢前に続き、池田もお礼を言ってこの場を後にする。
私も長居してしまったし、もう帰ろうか。
そう思い、食満先輩に声をかける。


「食満先輩、私も帰りますね」
「あ、鉢屋ちょっと待て」
「なんですか?」


首を傾げた私の目の前に竹とんぼが出される。


「ほら、お前にもやるよ」
「先輩、私そんな子供ではありませんよ」
「まぁたまにはいいだろ?」


いたずらっ子のような笑顔を浮かべた先輩に竹とんぼを渡される。
受け取り、頭を下げ私もその場を後にする。


「……本当によく飛ぶ」


食満先輩から見えないだろうところで飛ばした竹とんぼは先輩が言った通りよく飛んだ。


……たまには、こんな暇つぶしがあってもいいかもしれない。


そう思ったことは私だけの秘密にしておこう。
だって、こんなのんびりな過ごし方、いたずら好きの私には似合わないだろう?
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