短編

□初めての生活
2ページ/3ページ


「終わったー……」
「お疲れ」


授業が終わった途端机に突っ伏した守一郎に三木ヱ門が苦笑しながら声をかける。


「今日は一日座学だったからな」
「俺座学あんまり好きじゃない……」
「そうか?私は結構好きだが。
ところで、守一郎これからどうする?私は委員会なんだけど」
「あー……」
「守一郎は用具委員会だろう?」
「うん。そう。……用具委員会の皆に挨拶してこようかな。
どこで活動してるんだ?」


三木ヱ門は首を傾げた守一郎に答えようとしたが、廊下を駆け抜けて行った人物によって阻止されることになった。


「会計室はこっちだー!」
「あの馬鹿!」


廊下を駆け抜けて行った人物に三木ヱ門は慌ただしく立ち上がる。
呆気にとられている守一郎をそのままにその人物を追いかけようと廊下へ出た三木ヱ門だったが、
途中で思い出したようにひょっこりと廊下から顔をのぞかせた。


「すまん、守一郎!他の奴に聞いてくれ!」
「お、おう」
「左門!会計室はそっちじゃない!止まれ!」


左門を追いかけて行った三木ヱ門を見送ってから守一郎は他の三人に聞こうと廊下へ出た。


「わわわっ!」
「え?」


声の方へ守一郎が向いた瞬間、何かと衝突した。


「ごめんね!守一郎!大丈夫!?」
「タカ丸さん。大丈夫です。
……そんなに急いでどうかしたんですか?」
「学園長先生に髪結いを頼まれてたのすっかり忘れてて、それで急いでるんだぁ。
あ、行かなきゃ!」


えーっと、タカ丸さんもだめ。
そうするとい組の喜八郎と滝夜叉丸か?


そう考え、守一郎はい組の教室へ訪れた。


「きはちろー、たきやしゃまるー」
「守一郎。どうかしたのか?」
「あのさー……あれ?喜八郎は?」
「喜八郎ならあそこだ」


滝夜叉丸が呆れたように示した方向へ顔を向けると外で穴を掘っている喜八郎の姿。


「鋤の刃を研ぎ直して貰ったからと嬉々として出かけて行った」
「あー……」
「ところでどうしたのだ?」
「えーっと、用具委員会の活動場所ってどこか聞きに来たんだけど……」
「あぁ、守一郎は用具委員会に決まったのだったか。
用具委員会は、」


やっと教えて貰える、
そう守一郎が思った瞬間何かが通った。


「滝夜叉丸!」
「な、七松先輩!?
一体どうしたんですって、金吾と四郎兵衛、三之助目回してるじゃないですか!」


滝夜叉丸の言うとおり、抱えられている三人はすっかり目を回している。


「昨日、帰って来てから塹壕掘っただろ?
それに保健委員会が次々と落ちて、留三郎がかんかんなんだ!
早く逃げるぞ!」
「おい待て小平太!」
「もう来たか!行くぞ滝夜叉丸!」
「え、ちょっと待って下さいぃ〜!?」


嵐のように過ぎ去って行った体育委員会を守一郎が呆然と見送ったところで留三郎が教室へ入ってきた。


「逃げたか……あ?」


鋭い目で見られ、思わずびくっと反応した守一郎に気がつくと、留三郎はあー、と頬をかいた。


「驚かせてすまんな」
「い、いえっ!」
「お前確か浜守一郎だよな?」
「はいっ!」


守一郎の返事に、にっと笑う留三郎。
あ、笑うと優しそうな先輩だなぁ、なんてぼんやり考えていた守一郎を覗き込み留三郎は言葉を続けた。


「俺は六年は組用具委員長食満留三郎だ」


ん……?用具委員長……?


「あ!えっと俺……じゃなくて私、用具委員会になりました!浜守一郎です!
えっと、用具委員会の活動場所を探してたのですが……」
「用具委員会は基本は用具倉庫で活動……いや、いろんなところで活動してるな」
「そうなんですか?」
「あぁ。物を壊す奴らが多くてな……。
守一郎お前今日くるか?」
「あ、はい!」


再びにっと笑い留三郎は守一郎の手を取る。


「うわ、お前四年生にしては大きいなー!
でも十三って言ってたよな?」
「はい。十三歳です」
「あ、すまん。手繋がれるの嫌だったか?」
「い、いや、別に大丈夫です!」


別に嫌じゃない。
なんだか恥ずかしいっていうか、照れくさいっていうか……。


結局留三郎に手を引かれ案内されていた守一郎だったが、その留三郎が吉野先生に呼び止められた。


そこに見える倉庫だから先に行ってろ、
って言われたけど、そこにいるのが用具委員なのか。


守一郎は固まっている一年生三人に声をかけた。


「あのさ、」
「「「……!」」」


へ?今一年生から出たものは何だ?


なんて考えている暇もなく、用具倉庫から出てきた三年生に指示される。


「あー!?守一郎さんそれ捕まえて下さい!」


なにがなんだかわからないまま、目の前に飛んできた何かを掴む。
その三年生も一つ捕まえたようだ。
だが、後一つ足りない。
どこだと探していると留三郎が笑いながら戻ってきた。


「お前らの探し物はこれか?」
「あー!喜三太!そうです!」


喜三太?これ人なのか?


そう考えた時、留三郎と三年生が慣れた手つきでその何かを一年生にくっつけた。
守一郎が持っていたそれも留三郎が一年生にくっつける。


「先輩、それなんですか?」
「ん?これか?これは魂だ」
「た、魂ですか?」


魂が抜けるなんてあっていいのだろうか。


思わずそう考えるが全く焦っていない留三郎と作兵衛にまぁいいかと納得する。


「「あー、守一郎さんこんにちはー!」」
「こ、こんにちは……」


元気よく挨拶をする一年生二人とその二人の後ろでびくびくしながら挨拶をする一人の一年生。


あぁ、そうだ。今日は挨拶に来たんだった。


「こんにちは!
えっと、今日から用具委員になった浜守一郎です。
よろしくお願いします」
「一年は組福富しんべヱでーす!
食べ物何が好きですか?」
「一年は組山村喜三太でーす!
ナメクジは好きですかぁ?」
「……一年ろ組、下坂部平太です。
暗いところは好きですか……?」
「え、えっと……」


次々と繰り出される質問にしどろもどろになっていると三年生が声を荒げた。


「こらっ!守一郎さん困ってるだろ!
守一郎さん、すいません!
私は三年ろ組富松作兵衛です」
「これで用具委員は全員だ。
うちは下級生が多いからな。守一郎が来てくれて助かった。
ところで、今日の活動だが、」


ここで留三郎は一つため息をついた。


「この前から進めている壁の補修、の予定だったが、
その他に体育委員会が掘った塹壕を埋めなくちゃいけなくなった」
「「えぇー!」」
「……塹壕いっぱいだったよね」
「先輩、壁は後少しなんでいいとしても塹壕は……」
「そうなんだよなぁ。
壁の補修しながら守一郎に説明しようと思ってたんだが」


と、ふいに留三郎の制服が引っ張られた。


「せんぱーい。守一郎さん力持ちなんですよー」
「そうなのか?」
「そうなんです。この前木の板を二つに折ったんですぅ」
「ふむ……」


俺がとっとと壁の補修終わらせて塹壕埋めにいくか。
俺だけでもいいんだが、そうすると作兵衛が三人の面倒を見るうえに守一郎に説明しなくてはならないのか。
一年生……しんべヱは力持ちだから塹壕埋めでいいとして、問題は残り二人だな。
は組を一緒にすると作兵衛が大変だからなぁ。
しかし平太が守一郎に慣れてない今、一緒にするとそれはそれで大変そうだしなぁ……。


腕組みをして考え込んだ留三郎を一年生が覗き込む。


「……よし、じゃあ俺と平太が壁の補修。
作兵衛、喜三太、しんべヱ、守一郎が塹壕埋めな!」
「「「は〜い!」」」
「は、はい!」
「えぇっ!?」


思わず声をあげた作兵衛の頭に留三郎は手をおく。


「大丈夫だ作兵衛。俺も壁の補修すぐに終わらせていくから。
喜三太、しんべヱ」
「「はーい?」」
「守一郎は今日が初めての委員会なんだ。
いいか?お前たちがやり方を教えてあげるんだぞ?守一郎よりお前たちの方が先輩なんだからな?」
「ぼくたちせんぱいですかぁ?」
「そうだ!」
「わっかりました!」
「まかせて下さい!」


すぐに壁の補修を終わらせる、
と言っていた通り驚くほどの速さで塹壕埋めに混ざった留三郎と平太のおかげ作兵衛がそれ程困ることもなく委員会活動が終わった。


「つっかれたー……」
「作兵衛、すまんな」
「いえ、大丈夫です!」
「守一郎も初めての委員会なのに大変だったろ?」
「えーっと、用具委員会の苦労がわかりました……」
「せんぱい、お腹すきましたぁ」
「ぺこぺこですぅ」
「じゃあ食堂行くか。でもその前に」
「どろどろです……」
「お風呂だな!全員お風呂の用意してこい!」
「「「「「はーい!」」」」」


まだ早い時間だからか、風呂には誰もいなかった。
きゃあきゃあと楽しそうな一年生の体を洗ってあげたりと、守一郎にとって初めての経験ばかりだ。


「ちゃんと肩までつかるんだぞ」
「「「はーい!」」」


ようやく落ち着けたのは一年生の体を洗い、自分たちの体を洗い、水かけっこをして遊ぶ一年生が満足してからだった。


「ふぅ……」
「すまんな、守一郎。
初日なのにここまで付き合わせて。疲れたろ?」
「疲れたことは疲れましたけど、楽しかったです」
「そうか」


にっ、と笑った留三郎を見るのは今日で何度目か。


最初は怖い先輩かと思ったけど、優しい先輩で良かったなぁ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ