短編

□一時間忍たままとめ 壱
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静かな暗闇の中、息を殺す。


その中で、耳に届く微かな音。


今、私の左手側から上がった音は予め決めてあった合図。


『此方は問題無い』


それに答えるために私も合図を送る。


『此方も準備完了です』


暗闇で七松先輩の顔を窺うことは難しい。
だが、いつものように笑っているのだろう。


見張りの役をしていた三之助が小さな声をあげた。


「先輩、きました」


そしてそのまま決めてあった場所ーー私の右手側に収まる。


耳を澄ますと確かに小さな足音が二人分聞こえる。
まだ気配を消すことに慣れていないそれは段々と私達の所へ近づいてくる。


そして、


ぴたりと私達が今いる部屋の前で足を止めた。


そろそろと戸を開ける。


月明かりが部屋の中へ入ってくる。


「一体なんですか?」


そう言ったその片方の人物に向け、私達は声を揃えた。


「「「「金吾、誕生日おめでとう!」」」」


ぽかんとしている金吾とその隣で笑っている四郎兵衛。


私達の任務。


それは、


今年初めて忍術学園で誕生日を迎える一年生に淋しい思いをさせないこと。


学園長先生から下されたその任務はどの委員会にも共通のもので。


忍を目指す者にとっては無駄なことなのかも知れない。


だけど、嬉しそうに笑う金吾をみればそんな思いは吹っ飛ぶ。


「金吾、びっくりしたぁ?」
「はい!でも、嬉しいです!ありがとうございます!」


満面の笑みを浮かべる金吾。


私達、体育委員会は完璧に任務を遂行しました。
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