短編

□一時間忍たままとめ 壱
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夜も遅い時刻。
医務室には伊作の他に、仙蔵、文次郎、小平太、留三郎、兵助が揃っていた。
伊作を除く彼らは委員会に四年生を持つ者だ。


「遅いな」
「あぁ」


本来ならば既に帰っているはずの時刻。
しかしまだ姿が見えない。


「大丈夫だよ。それに、彼らには忍務が終わったら医務室に必ず来るように言ったから」


安心させるように微笑む伊作だが、内心は穏やかでは無い。
もし彼らに何かあったら。


五人の四年生に課せらせた忍務は危険な物であった。
体育委員である滝夜叉丸を筆頭に喜八郎、三木ヱ門と優秀な三人が揃っている一方で数える程しか忍務をこなしていない守一郎とタカ丸がいるのである。
不安は拭いきれない。
そのために医務室で五人を待ち伏せしているのである。


ふと学園の中が騒がしくなった。
軽やかな足音を立て、医務室に姿を見せた小松田がふわりと微笑んだ。


「五人とも無事だよ」


その言葉に安堵のため息をつく。
今は学園長先生のところにいるからもうそろそろでこっちに来るんじゃないかな。
そう言い残して医務室を後にした小松田。
その彼も五人が帰ってきたことにほっとした一人である。


「失礼します」


小松田が言った通り、それほどまたずに五人が訪れた。
伊作以外に自分の委員会の先輩もいることに驚き目を見開いている。


「な、七松先輩!?」
「おう!おかえり滝夜叉丸!花形だったか?」
「もちろんです!」
「なんでいるんですかぁ?立花先輩」
「お前を待っていたのだよ喜八郎」
「大きな怪我はないな三木ヱ門」
「はい、潮江先輩」
「守一郎、無事で良かった」
「っ、はい!食満先輩!」
「タカ丸さん、おかえりなさい」
「ただいま、兵助くん」


それぞれ大きく手を広げた六年生に向かって飛び込む四年生。
その目には普段は見せない涙が浮かんでいる。
兵助とタカ丸は年齢が他と違うからだろうか。
涙ぐむ兵助にタカ丸が慌てている。


「こんな光景はなかなか見れないだろうな」


そう呟いた伊作は手にしていた救急箱を降ろした。
見たところすぐに手当てしなければならないような深い傷はあまりなさそうだ。


本来ならば許さないけれど、今回は少しぐらい、ね。


しかし、なかなか離さない六年生。
伊作が怒り強制的に手当てをするまで後少しである。
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