短編

□たまには
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「お帰り、滝夜叉丸くん」


にこにこと笑いながら門を開ける小松田さんに挨拶をして、学園長先生のもとに向かう。
学園長先生からの任務だったが、この私にとっては簡単なものだった。
何しろ、半日で終わらせたのだからな。


「失礼します」


学園長先生の庵を後にして、自室に向かう。
……気のせいだろうか。何だか甘い香りが漂っている気がする。
それに学園内が少なからず騒がしい。
休日だから、というわけでは無いようだが………。


「よし、行け!」
「え?えぇ!?」


振り返ろうとした時、だだだだ、と勢いよく白い何かが走ってきた。
受け止めきれずに後ろに倒れ込む。


「お前たち!この私を………」


体を起こしながら文句を言おうとしたが、白い何か、に言葉が止まる。
……何だこれは。どう見てもシーツの固まりだが。
首を傾げると笑いながら七松先輩が姿を現した。
……何故、七松先輩もシーツを被っている
のだろう。


「滝夜叉丸、お帰り!」
「「「お帰りなさーい」!!」」
「はい。ただいま帰りました。
……ところで、先輩、何故そのような格好を?金吾、四郎兵衛三之助もだが」
「滝夜叉丸知らないのか?」
「今日はお菓子が貰える日なんすよ」
「いたずらも出来るんだなぁ」
「みんなで仮装する、南蛮のお祭りですよ。
確か、ひろうえん?」
「それは披露宴!祝いの宴だ!」


はぁ……。いくらしっかりしていても金吾は一年は組なのだな。


「違うよ、金吾。確か、はろうじん?」
「それは波浪神!航行中の船を守る神様のことだ!」


はぁ……。そういえば、四郎兵衛もは組だったか。


「お前たちが言いたいのはきっと、はろうぃんのことだろう?」
「なんだ、滝夜叉丸知ってたのか?」
「はい。さっきまで忘れていましたが」
「よし、じゃあ遠慮はいらないな!かかれ!」
「「「「とりっく おあ とりーと!!」」」」


またも目を輝かせたシーツの大群に飛びつかれる。


「わぁ!?ちょ、待っ」
「お菓子ですか??」
「いたずらですか??」
「いたずらっすよね」
「いたずらか?」
「ちょっと待て!先輩も待ってください!」


慌てて左手を挙げる。
おいしいからよろしく、と喜八郎に頼まれていた饅頭だ。
ならば、と体育委員の分も買ってきたのだ。


「ちぇ、流石滝夜叉丸だな!」
「いたずらしたかったっすけどね」
「あー!このお饅頭、しんべヱがおいしいって言ってたやつだ!」
「おいしそうなんだなぁ」


……今日が南蛮の祭のはろうぃんということを忘れていて偶然買ったものだったのだが。
何はともあれ、いたずらされることは避けられたようだ。
しかし、何故私のことをじーっと見ているのだろう。


「滝夜叉丸せんぱいは言わないんですかぁ?」
「私か?」
「とりっく おあ とりーとですよ?」


にこにこと四郎兵衛と金吾が問い掛ける。


「しかし、私は仮装していないぞ?」
「しているじゃないか」


七松先輩に言われ、今の自分の格好を思い出す。
そういえば、お使いのままの格好だったな。
今回は女装したほうがやりやすそうだったため女装していたのだ。


「では……、とりっく おあ とりーと」


すると、一つの包みが渡された。
紐を解いて中味を見る。


「……これは」
「せんぱいたちと一緒に作ったんです」
「あまり上手に出来なかったんですけど」


紐を解いた中味は、形が不揃いな団子。
一つ手に取り、口に運ぶ。


「……おいしい」
「だろ?長次に作り方聞いたからな!」
「これ作ってたら先輩帰って来ちゃったから仮装は適当なんすよ」


体育委員会にしては珍しくのんびりした時間。
まぁ、たまにはこんな時間があってもいいじゃないか。
そう私は一人で頷いた。

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