短編

□愛してる
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「なぁ、知ってるか?」


酒盛りの最中、いきなり三郎が真面目な顔をした。
思わず周りも酒を飲む手を止め、三郎に向き直る。


「11月11日はポッキーの日だ!」


一瞬の静寂のうち、周りは再び酒に手を伸ばし談笑をはじめた。
酔っ払っている者がまともなことを言うはずがない。


「なんで無視する!!」
「なんで、って今日11月11日じゃないしなぁ」
「だいたい、ぽっきー、ってなんだかわかんないしね」


八左ヱ門と勘右衛門が面倒臭くさそうに相手をする。
すると三郎は一つ上の武闘派の先輩の顔を纏った。


「説明しよう!
ポッキー、とは細い棒状のクッキーにチョコレートがついている、平成の時代の人気のお菓子だ!」
「ねぇ、三郎。説明になってないんだけど。
それどこの言葉?」
「だいたい、平成の時代ってなんなのだ?」


今度は雷蔵と俺が問い掛ける。
すると三郎は一つ上の暴君と名高い先輩の顔を纏った。


「細かいことは気にするな!」
「細かくねぇよ!」
「それでだな、」


いつの間にか雷蔵の顔に戻っていた三郎は八左ヱ門のツッコミをものともせず言葉を続けた。


「11月11日を過ぎてしまったから変わりに愛してるゲームをしてくれ、と管理人に頼まれたのだ」
「愛してるげーむ?」
「管理人?」
「さっきから三郎は何の話をしてるんだ?」
「なに?愛してるゲームがわからないだと?
愛してるゲームは隣にいる奴に愛してる、と言って、照れたり表情を変えたりした方が負け、というゲームだ。
五年全員でやれ、とも言われた」


三郎はどんどんと話を進めていく。


「え?俺もやるのか?」
「当たり前だ!五年全員なんだから。
そうでなくても酒のつまみが豆腐のお前に拒否権は無い!」
「豆腐を酒のつまみにしたっていいじゃないか!なぁ、勘右衛門!」
「あはは。あ、ほらはじまるよ」


大好きな豆腐を否定され、勘右衛門にははぐらかされ、兵助はむぅ、と口を尖らせた。
雷蔵が苦笑しながら口を開く。


「じゃあ勘右衛門から右回りで、僕、三郎、はち、兵助だね」
「俺からかぁ……。よし。
……コホン。……雷蔵、愛してるよ」
「「「……………………………………」」」
「だから、表情変えたら駄目!」
「「え?今、変わってた?」」
「二人とも笑ってたぞー」


あれ?と首を傾げながらもう一度やるが次は何故か無表情で棒読みになる。


「二人ともこえぇー!!」
「この二人はこれに向いてないと思うのだ」
「もう、全然進まないじゃないか!」
「じゃあ俺たちのところ飛ばして雷蔵と三郎のところやってくれよ」
「うーん、そうだね。
じゃあ三郎やろっか」
「はいはいはーい」


異様にご機嫌な三郎。
酒を飲んだからか雷蔵と一緒にいる時、花が飛んでる気がする、と双忍以外の三人が思った。


「三郎、愛してる」
「…………」
「……はい、引き分け!」
「それにしても三郎よく耐えたなぁ」
「…………」
「……三郎?」
「わあぁぁ!!雷蔵!私も愛してる!!」
「うわっ!?」


三郎が雷蔵に抱き着いた。
……飛びついたと言った方が正しいが。


「さーって、お次は八左ヱ門だな!」
「え?三郎さん?いい笑顔なんですけど!?」
「ほら、やるぞ!
八左ヱ門…………愛してるわよ」
「ぎゃあ!!!」


周りで見ていた三人も思わず顔が引き攣る。
三郎の顔が伝子さんだったのだ。


「さ、三郎!何するんだよ!」
「この格好の時は伝子さんとお呼び!」
「って言いながら外してるだろ!」
「やっぱり八左ヱ門は驚かしがいがあるな。
さっき雷蔵に耐えたかいがあった」
「これのために耐えたのかよ!」
「それ以外に何がある」
「く……。断言されると……。
あれ?っていうことは俺、もう終わり?」
「いいんじゃないか?八左ヱ門と兵助のは面白くなさそうだし」
「「………………」」


あっさりと言われ、お互い顔を見合わせた。
反論出来ないのがなんとも悲しい。


「と、いうわけで兵助さんどうぞ!」
「はぁ……。
やらなきゃだめか?」
「もちろん」


兵助はもう一度ため息をついてから口を開いた。


「愛してる」
「……兵助、酔ってる?」


勘右衛門の問い掛けに兵助は首を傾げた。


「酔ってないぞ?」
「じゃあ今、何に愛してるって言った?」
「それはもちろん俺の隣にあるこの豆腐に」
「「「「……………………………………」」」」


再び静寂が訪れる。
真っ先に三郎が口を開いた。


「……今日はお開きにするか」
「……おぅ」
「……そうだね」
「……うん」


首を傾げる兵助を余所に意見が一致した四人だった。
 

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