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□お前ばっかり
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「なんなんだよ、その傷」
新聞だかニュースで知ったであろうその事件に、目の前の恋人が腹を立てていることは確実だった。
いつもうるさいコイツの声が静かなことに怒りの深さを感じて、俺は盛大にため息をつく。
まだ梅雨の時期だっていうのに蒸し暑い今は、外で鳴く蝉の声まで聞こえて来やがる。
久々の逢瀬なのに、いかにも不機嫌に開口一番そんなことを言われるととてつもなく帰りたくなるのは俺だけだろうか。
自分は血生臭い戦場から帰って必死に血の臭いを消し、極限まで気を遣ってここへやってきたというのに。
もっと他に言うことがあるだろうが。
そんなことを考えながら舌打ちをすると、目の前の赤い瞳がまた怒りに燃えたのがわかった。
「なんでテメーが舌打ちすんの?」
「……苛ついたから」
「はっ、何苛ついたって。自分の状況考えろよ」
「人にもの言える立場じゃねェだろ、お前は」
「……は?」
ああ、まだとぼけるのか。全部分かんのに。いつもそうだなお前は。
俺は抜刀すると、なにやら怪訝な表情をしている銀時の体へ、刀の柄を押し当てた。
「テメーこそなんなんだよ、この傷は」
一瞬顔を歪めただけで、まだ優勢な立場を譲ろうとしない銀時に、刀を持つ力を強める。
「……ッ、」
ギリ、と歯ぎしりをしたと思うと。
じわり。
服の上からでも分かる出血に笑いがこみ上げて、ニヤリと口を歪めた。
しかし同時に湧き出た感情を止めることは出来なくて。
沸き立つ苛立ちを言葉にしてしまっていた。
「お前ばかりずりぃよな。いつだって俺には何も言わずにそんなデケェ傷つけて。それを隠そうとして。俺はお前みたいに知る術はないのに、テメーはいつだって俺のことばかり気にして。バカじゃねぇの? お互い様だろ、こんなん。護るモンがあるから剣を取る。それを護るために出来た傷なんざ誇りだ。そうだろ? なのに一々バカみてえ。自分(てめー)のことは棚に上げて、俺を責めて、心配しただなんて。ふざけるのも大概にしろよ。いつどこで何してるか、お前は俺に教えたことなんかねぇだろ!」
「土方、」
「なんなんだよ! 俺が責められる理由なんざねぇだろ! お前はコロコロ護るものを変えて、素性知らねー野郎に体触らせて、頼らせてっ、そいつのために刀を振るうんだろッ!!」
「土方っ」
「お前がそいつらを護る時、お前の頭ン中に俺は存在してねぇ! いつだってテメーは知らねーような女や男のことしか考えねぇ! ふざけるな……ッ! ざけんなよ…ッ」
「土方!」
キッと銀時を睨みつけていると、大きな手が頬を覆って、目元へと唇が押し当てられた。
チュッと吸い付くように両目にキスをすると、凄い力で抱きしめられる。
「ごめん、俺が悪かったから……、泣くな」
水滴が頬を伝う感触がして、自分の涙に気づいた。いつの間に泣いていたのだろう。バッカじゃねぇの、俺。
いつからこんなに女々しくなった?