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□恋する天才
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「ざーいーぜーんー!」
「……?」


財前が振り返るよりも早く、何かがその横を駆け抜けていった。
その勢いによって起こった風を顔に受けながら、財前は容赦なく舌打ちをした。


「浪速のスピードスターも校内じゃ、ただの迷惑な人っすわな。謙也さん」


足でもかけてやればよかったか、と付け足す。
財前の数メートル先でブレーキをかけたその『浪速のスピードスター』は、これまた物凄いスピードでUターンしてきた。


「なんやて!お前には先輩を尊敬する気持ちがないんか!」
「少なくとも謙也さんにはありません」


そっぽをむいて言い放つ生意気な後輩に、謙也は握りこぶしをぷるぷると震わせた。


「こっちがわざわざ2年の教室まで出向いてやってんのに、なんやねん!その態度は!」
「別に言うてくれはればこっちから行きましたわ」


謙也はもともと気が短い。ようするにキレやすいのだ。
そしていつものごとく、爆発しそうになったその時。


「はーい、そこまでや」


謙也の脳天に毒手チョップを落としたのは言うまでもなく白石。


「いってぇ……何すんねん、白石!」


食って掛かる謙也の頭を抑えつけながら、白石は溜息をついた。


「後輩にキレてどうするんや。用があって来たんやろ」
「何の用すか、部長まで」


あくまで態度を改めない財前に、白石は苦笑した。


「何、たいした用やないねん。今度学園祭で出す喫茶店の衣裳をユウジが作ってくれるんやけど、その材料を二人で買いに行ってもらいたいんや」
「はぁ。今日っすか」
「今日は部活もオフやし、財前があいてれば」
「今日は軽音も無いですし、行けますわ」
「さよか。なら頼むわ。謙也」


白石と財前のやりとりを完全な拗ねモードで聞いていた謙也は、のろのろと振り返った。


「何やねん」
「ほなら財前と行ってきてくれや。5時ぐらいまでには帰ってきてくれ」


な?と笑顔で首を傾げる白石に、財前が、きめぇ、と呟いた。
というわけで二人は学校から少々離れた店に来ていた。
白石から細かい指示を書いたメモを渡されていたこともあって、買い物は案外スムーズに終わった。


「なんや、まだ16時やん」

腕時
計を見て謙也が呟いた。


「なぁ、財前。どっかで買い食いして行かへん?俺腹減ってもうたわ」
「……まぁええっすよ」


時間も余っているならいいだろうと、財前は同意した。
特に反対する理由もない。


「よっしゃ!ほなら、甘味処でも行くか!」
「はぁ」


一応後輩に気を使ってか、謙也は財前の行きつけの甘味処に入った。
平日というだけあって、店内はがらんとしている。


「おばちゃーん!俺、抹茶パフェ!」
「俺はクリーム善哉で」


注文の品はすぐにやってきた。
謙也はスプーンを手に取り、パクつきにかかる。
そんな先輩をぼぉっと見ながら、財前も自分の善哉を口に運んだ。


「先輩食べるの速すぎすわ。こっちまで食べた気しなくなりますやん」


心底呆れたような財前の口調に、謙也は口を尖らせた。


「何やねん!ゆっくりのほうが食った気せんやろ!つか、口の端にクリーム付けとる奴に言われたないわ」


財前が自分でおしぼりを取るより早く、謙也の指が財前の口元のクリームを拭い取った。
そしてそのまま指についたクリームを舐めた。
当然だが、財前は硬直している。


「ほんまガキやなぁ」


呑気にけらけらと笑う謙也。
財前はまだ動けない。


「ん?どないしたん?」


見事に固まり続ける財前を不審に思ったのか、謙也はひょいと顔を覗き込んだ。
途端、財前は顔を真っ赤にして仰け反った。


「なっ……何でもないすわ!つかそういうこと公衆の面前でやるのやめんか!」


らしくもなくあたふたする財前に、謙也は笑顔でとどめの一言を放った。


「何や、ほんまかわえぇなぁ!光!」


この後謙也が抹茶パフェを頭からかけられたのは言うまでもない。

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