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□宿木の下で
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12月上旬。今年も、街がクリスマスに色付きはじめた。冷たい空気とは対照的に、暖かい光が満ちる。
ショーウィンドウから溢れ出るイルミネーションの光に目を細めながら、人々は道を往く。
子供たちがはしゃぎ回るなか、不二は凍える手を息で暖めながら大通りを歩いていた。
現在18時。
この時間にもなると、空は完全に闇につつまれる。
本来ならば、部活を引退した不二はもっと早く帰路についているはずだ。

『19時に駅ビルの前ねv』

今朝、姉由美子が出かける間際に置いていったこの言葉。
買い物につきあえ、と暗に示すこの台詞に抵抗できるほどの権力は不二にはまだない。

(受験生を何だと思ってるんだか)

とはいえ、半分持ち上がりのようなこの学園の制度なら不二にとって進学は大した問題ではない。
それをわかって由美子も不二を買い物に連れ出す。
本当に質が悪い。
はぁ、とため息をつくと、その吐息は白く可視化された。
気付けば、目的地の駅ビルはもう目の前だった。

「早く着きすぎたかな…」

時計を見れば、待ち合わせの時間より約一時間早い。
立って待ち続けるには少し長すぎる。
不二はきょろきょろと辺りを見回した。
どこか暇をつぶせそうなところは無いだろうか。
ハンバーガー屋に、フライドチキン屋。
ドーナツ屋もある。
しかし何となく今の気分にはあわない。
ふと、冷たい風が首を掠め、不二は背筋を震わせた。
慌ててゆるんでいたマフラーをなおす。
壁に寄り掛かり、空を仰いだ。
暗く、黒い夜空に星は見えない。

「越前!今日は何食うんだ!」
「……今日はマックの気分スね」

聞き覚えのある声に不二は視線を下ろした。
そしてそこには予想どおりの二人。
桃城武と、越前リョーマ。
不二は小さく笑った。

(相変わらずだね。あの二人は)

不二が部活にいた頃から、桃城とリョーマはよくつるんでいた。
一緒に帰ったり、寄り道したり。
そう。
他人が入れないくらい親しそうに――。

「………」

不二の目がすぅと細められた。
右手は無意識の内にきつく握り締められる。
楽しそうに、笑うリョーマ。

(……痛い)

その笑顔を見るたびに軋む心。
彼の笑顔は大好きなのに。
いつもそれは自分に向けられているものではなくて。

(もう半年間も……耐えてきたのか)

自分の気持ちに気付いてからもうそんなに経つのか、と改めて思った。
リョーマに会うたびに頭の中はぐちゃぐちゃになる。
いつまで経っても整理はつかない。

(お願いだ……これ以上、僕を苦しめないでくれ)

親しげな二人を、もう見ていられなかった。
視線を外し、顔を伏せて早足でその場を立ち去った。
先程より激しく、冷気が肌を刺す。
不二の心中とは裏腹に、クリスマスソングが陽気に流れ続けていた。
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