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□If Only in My Dream
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雪がちらちらと舞い落ちて、リョーマの視界を横切った。
かじかんだ手を息で暖め、リョーマはラケットを握りなおした。
高くトスをあげ、勢い良くラケットを振り下ろす。
空っぽの相手側のシングルスコートを少し外れたあたりでボールがバウンドし、視界から消えた。
チッと軽く舌打ちをして、リョーマはポケットに手を突っ込んだ。
こう寒いとコントロールもうまくいかない。
いや、クリスマスの前日に、一人淋しくテニスをやっているのも何かおかしい。
先程も南次郎にからかわれたばかりだ。
そんなこと言われても、とリョーマは考えた。
自分には関係のないことだ。
そんな暇があったらテニスをしていたほうがよっぽど楽しい……はずだ。
ある人物が頭の中をちらつくのをリョーマは急いで打ち消した。
とはいえ、この寒さでテニスをするのは少し無理があった。
相手がいればラリーなりできるのだが、生憎南次郎は母とデートの最中なのである。
部活のメンバーに声をかけるという手もあったが、この忙しい時期に急な誘いをかけるのも気が引ける。
特にすることもなく、ラケットの上でボールを跳ねさせながら、ぼんやりとその様子を見ていたリョーマはふと首の後ろに風を感じた。
と。
っさにラケットで受けとめたものはテニスボールだった。
難なくボールの勢いを殺し、上に跳ねあげて手で捕まえた。

「さすがだね、坊や」

静かな笑いを含んだ声が静かなテニスコートに響いた。
聞き覚えのある、この声。
振り返ると、やはり予想通りの人物が立っていた。

「………アンタも暇だね」

呆れたようなリョーマの言葉に幸村はくすくすと笑った。

「君も人のことは言えないだろう」

一見女性に見えるような優面に優雅な微笑をたたえ、幸村はリョーマに歩み寄った。

「本当に君はつれないね」

視線があわさっても、リョーマは微動だにしなかった。
白い手がリョーマの頬を捉え、輪郭をなぞってゆく。
思ったよりも暖かな手に、リョーマは密かにほっとした。
唇、首筋を撫でる手にリョーマは終始無抵抗だった。
この男を拒むつもりはない。
だが、媚びるつもりもない。
ただ、好きなようにやらせておけばいい。
一度受け入れてしまえば、逃げ出せないことはわかっている。
つい、と幸村の指がリョーマの顎を持ち上げ、唇と唇が触れた。
その温もりに、いつも負けそうになる。
幸村がリョーマに触れる手はいつも暖かくて優しくて。
思いがけず、リョーマの
瞳から涙が零れ落ちた。
雫は頬を伝い幸村の手を暖かく濡らす。

「………どうしたんだい」

唇を離し、幸村が問うた。

「何でもない」

短く答え、涙を袖で拭った。
幸村の唇が目尻にたまった涙を吸い上げた。
リョーマを優しく抱き締め、幸村は目を閉じた。

「いい加減、意地を張るのをやめなよ」
「いやだ」

ぼそりと答えたリョーマに幸村は苦笑した。
腕の中でリョーマが僅かに身じろぎをした。
リョーマは幸村を拒みも受け入れもしない。
ただただ幸村の愛を受け流すだけなのだ。
リョーマの心はもうわかっている。
そのいじらしく可愛らしい最後の抵抗を、幸村は楽しんでもいた反面、焦れったくも思っていた。
いとおしさを込めて再びリョーマに口付ける。
促すと、リョーマも渋々というふうに応えた。
深い深い、キス。
お互いの切なさをぶつけ合うようにまったく違う方法で相手を求める。
長いキスが終わった頃には雪がうっすらと二人の睫毛に、髪の毛に乗っていた。
しばらく雪の舞う空を見つめていた幸村がそっとリョーマの手を取った。
その冷たさを奪い、温もりを与えるように、願いを込めて幸村は口付けて呟いた。

「HAPPY BIRTHDAY AND MERRY CHRISTMAS」

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