曇天に花

□曇天に花
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滋賀県 大津
―天気 大いに曇り―
 
曇家の庭では、今日も稽古の音が響く。
緩急つけて、絶え間なく響く音に耳を澄ませながらお湯を沸かす。
今日の稽古、次男の空丸はずいぶん頑張っているみたい。
曇家当主、天火のお仕事にもついて行ったみたいだし。
「白子さん、警官のお二人にお茶と、お菓子をもって行ってもらっても良いですか?」
ちょうど通りかかった、曇家の居候、白子さんに淹れたばかりのお茶を託す。
「ああ、天火達の分も持とうか?」
二人分のお茶と、茶菓子が乗ったお盆を手に白子さんが首をかしげる。
「天火さん達は動いた後ですから、少し冷まして淹れたのをお持ちしますから」
「……そうだな、じゃあコレは持って行くよ」
庭の方が一時静かになって、宙太郎の元気な声が響く。
曇家の末っ子はとても自由に育ったけれど、育て方を間違えていないか少し心配だ……
洩れ聞こえ来る会話が妙に可笑しいのは曇家ならではかもしれない。
「浅葵〜茶ぁー」
ちょうど良い頃合いで、天火の声がかかる。
運んで行ったお茶を手に取り、もう片手でお菓子を掴んだ天火は、頬に餡子が付くのも構わすにひょいひょいと、弟たちの分まで手を出している。
「もう、天火さんったら。空丸、宙太郎ちょっと待っててね、代わりのを持ってくるから」
確か、もう三個ほど作ってあったはず。
お盆を持ったまま背を向けた途端……
「まだ逃げた罪人がいる!?」
空丸の声が響いた。
「……一人じゃなかったのね」
急いでお菓子を盛り付けて戻る途中、玄関を飛び出す天火に腕を掴まれて引き摺られる。
空いている方の手で、勢いよく玄関戸を閉めた天火。
追いついてきた、空丸と宙太郎の目の前でピシャリと閉まった戸に、小さなため息な洩れる。
「なにやってんだ!」
勢いよく戸をあけ、叫ぶ空丸に、『お前らは駄目』と軽く告げ、私の手にあったお盆を空丸へ手渡す。
「さっき連れて行ってやっただろ。今回はお兄ちゃんと浅葵に任せなさい」
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