哀悼のマリオネット

□貴方を占める言葉が欲しい
1ページ/2ページ


これは私が中学2年生のとある夏のお話。
弓道の全国大会決勝のことだった。


中学生から始めた弓道は思ったより面白くて、全国大会まで駒を進めるほどの急成長を遂げた。
中学一年の大会では全国団体五位、個人三位。二年の春の新人戦では全国団体二位、個人一位になった。
何事にも無関心な私に初めて熱中出来るものができ、私よりも姉がたいそう喜んでいた。
喜んでくれるのは嬉しい。嬉しいのだが、この状況の打開策はないのか…


拓「おおおおお!俺美鶴の袴姿初めて見た!」

ナ「凛としてて凄い似合うよん」

ひ「カメラ持ってきてて良かったあ。あ!前より大人っぽくなってるー!」

山「是非とも それを僕に現像してくれないか?美鶴の成長の軌跡アルバムに追加しなくては!」

佳「山近…お主そんな気色悪いもの作っておったのか?
 それは美鶴に嫌われるのは当たり前じゃ」

ト「あれ?泰楽その荷物何?」

泰「ん?ああこれは美玖と一緒に作ったお弁当。みんなで食べようと思って」

「美鶴の好きなものばっかり入れたのよ!」

ト「美鶴 好きなもんあったんだ」

「あら トシ失礼ね!」


レジャーシートを敷いて一番前を陣取り、わいわい騒いでる連中。
あそこだけ遠足のような賑わいである。20過ぎの大人が大勢でなにしてるんだ。
ああもう嫌だ。全力で他人のフリしたい。山近さん凄い笑顔で手降ってるし…。


今日は全国大会決勝戦である。
試合前の精神統一が重要なこの競技で、あんなうるさくされたらたまったもんじゃない。


「香椎さんのご家族来てるんだ。これは頑張らなくちゃだね」

『すみません部長。今から黙らせてきます』


部長は凄く優しい人である。部長達三年はこれで終わりなんだ。
あんなうるさいのに邪魔させてたまるか。
私は試合前に姉達の所へ向かった。


***


山「あ!美鶴d…ぶほっ」


私に一番初めに気付いた山近さんにおもいっきりタオルを投げつけた。水で濡らしたやつを勢いよく顔面に。


「美鶴どうしたの?試合始まっちゃうわよ?」


ほわほわした雰囲気を纏いながら姉が訪ねてきた。
いくら私が不機嫌でも怒っても、そのふわふわな感じは変わらない。


『うるさい。来るなって言ったでしょ?何でこんな大勢で来たの?
お姉ちゃんとジュン兄だけならまだしも…』

拓「そんな堅いこというなよ」

ひ「ごめんね!どうしても美鶴の姿みたくて」

山「僕が応援に来ないと負けるかもしれないだろう?」

『私はそんなヘマしない。悦さんがいないと何も出来ない山近さんと一緒にしないで』

泰「美鶴 ごめんね。俺がみんなに声かけたんだ。
 美鶴が好きなもの いっぱい作ってきたから、後から一緒に食べよう?ね?」

『……っ』


ジュン兄は凄くずるい。
その笑顔も、その仕草も、全部ずるい。


泰「応援してるから頑張って」


そうやって頭を撫でるのは、もっとずるい。
完全に子供扱いされてるのは分かっている。でも、それでも私だけにしてくれているという優越感には勝てない。


『そこにいたいなら静かにしててよね』


私はそう吐き捨てると先輩達の所へ戻った。
あそこに耐えられずに戻ってきてしまった。
結果 ジュン兄に言いくるめられ あの遠足気分の連中を追いやることは出来なかった。


佳「泰楽は罪な男じゃのお」

「うふふ。動揺する美鶴かわいいよね!」

佳「お主は誰よりも親バカじゃの…」

ト「はあ?どこをどう見たら動揺してたんだよ?いつも以上に無愛想だっただろ?」

「もう!トシはわかんないの!? まあきっと試合中に分かるよ。」


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ