Short
□lovesickness.
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「グレイ、待たせた」
彼女がラウンジでアダムと雑談を交わしていれば、一人の青年がやって来た。
彼の姿を確認すれば、彼女は笑みを見せていや全然、と言った。
「いつものメニューで良いんだったらもう注文しておいたけど」
平然となれたことのようにそう続けると、男は済まなそうな顔をしてありがとう、と言う。
「いや、すぐに出れると思ったんだが、“嫁”から逃げれなくてな」
「それはまた、ご苦労さん…どうせ、アダムに会いたいとか言ってたんでしょ」
嫁から逃げられない、という彼に対して彼女はクスクスと笑いながらそう返す。
「笑い事じゃねぇよ、あの実験は失敗だ、失敗」
むっとしてそう吐き捨てる彼にアダムは言う
[リヒター、ロボットに恋愛感情を持たせようと思うことが失敗なんだ]
「じゃぁ、アダムは恋愛してみたくないのか?」
おどけたように彼はアダムに対してそう尋ねる。
[言葉の定義としての恋愛は知っているが、体験した事がない。何とも言えない事だ]
「言葉の定義、アダムの恋愛はどういう意味を持っているんだ」
[意味など無い。“男女が恋い慕うこと。また、その感情。”ただそれだけだろう]
冷たくそう言うと、アダムはふいよと何処かへ移動して行った。
「じゃぁ恋って何なんだよ」
はぁ、と溜息一つ吐くのは彼。
その目の前でくすくすと笑うのは彼女。
それは、日の暮れた夕方の事だった。