短編集

□有り得ない邂逅
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スーパーマンのマークのついたTシャツの上から学生服を着た子供……沖田総悟は屋上で昼寝をしていた。
カー、クー、と言う寝息が風に乗って何処かへと消えて行く。

彼は一応は風紀委員と言う立場にいるが、彼自身が校内の風紀を乱す人間の一人である。

本来この時間は授業があるのだが、彼はそんなの知ったことかと言わんばかりに寝息を立てている。


「コラ」


ペチリと誰かに額を叩かれ、沖田の意識が覚醒した。


「なぁに人の授業サボって昼寝してくれてんだ?」


そこにはくわえ煙草ならぬくわえレロキャンをした坂田銀八の姿。


「なんでィ、銀八か」


「銀八つーな。先生って呼べ」


「じゃあ俺の名前間違えないでくだせェ」


「間違えてねーだろ、総一郎君」


「総悟でさァ」


くわっと欠伸をして上体を起こす。


「まったく。俺の授業の時だけサボりやがって。そんなに現国が嫌いかコノヤロー」


「現国じゃなくてアンタが嫌いなんでさァ」


本当は彼にこうして迎えに来てもらいたいからサボっていることに、彼は気づいているだろうか。
もしかしたら気づいていながら気づいていないふりをしているのかもしれない。

彼は誰にでも平等だから。


「そんなこと言ってねぇで行くぞ。他の奴ら待たせてんだから」


起き上がるためにか、ほれ、と伸ばされた手を躊躇いなく掴む。

その時声が聞こえた。
微かな、歌い声。


「ん?」


「は?どした?」


「歌、聞こえやせんか?」


「どっかのクラスが音楽やってんだろ」


「いやそうじゃなくて………」


会話している間に大きくなる歌声。

それが歌声であることは分かるのに、どうしても歌詞が分からない。


クラクラと視界が歪む。


あ、やばい。


意識が遠のいていった。

























「あ、れ?」


歪んだ視界が徐々に戻っていく。

でも戻った視線の先には銀八の姿はない。


「先生?」


しん、と静まり返るここはどう見ても屋上ではない。
何処かの路地裏のようだ。


「銀八先生?」


返事はない。


何故自分がこんな所にいるのかわからず、沖田は頭を掻いた。

漸く呆然と立ちすくんでいたが、不意に頭痛が襲ってきた。


「真選組一番隊隊長……沖田総悟だな?」


頭痛と同時に音もなく現れたのは袴姿の男。


「(え?コスプレ?)」


痛む頭で考える。

新撰組と言えば近藤勇と土方歳三、沖田総司だが、その男は確かに自身の名を呼んだ。


「はぁ……確かに俺は沖田総悟ですが…何か用ですかィ?」


「その命、頂戴いたそう」


男が腰にさしていた刀を抜く。

最初はレプリカかなにかかと思っていたそれは鈍い光を放っている。


「(………本物か?)」


いやいや、流石にこのご時世刀なんて有り得ない。
そんなことを考えていると駆け出してきた。

そして刀が自分に向けられて


「死ね!!」


ますます頭痛が酷くなり、沖田は意識を手放した。

























銀色が見えた気がした。
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