短編集

□クリスマス
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「銀さん、何書いてるんですか?」


洗濯物を畳みたがら新八が問う。


「サンタクロースへの手紙。」


「へー、サンタクロ……………え?」


新八は手を止め、呆然と銀時を見つめた。
銀時は巫山戯ている様子はなく、何を書こうか迷っているような顔で手紙を見つめていた。


「今年は何にしようかなぁ……」


「ぎ、銀さん?」


「ん?」


戸惑いながら名前を呼ぶと、彼はキョトンとした顔をした。


「あー……サンタクロースに手紙書いているんですか?」


「だからそう言ってんだろ。なんだよ新八、もう耳が遠くなったか?」


新八な溢れ出る冷や汗を拭い、乾いた笑いを浮かべた。


「あはは…僕、ちょっと出掛けてきます……」


「お、おい。洗濯物……聞いてねぇなコイツ。」














「神楽ちゃん。」


「何アルカ?」


定春の散歩に言っていた神楽。
その神楽を公園で見つけ、2人ベンチに座る。


「サンタクロース、って信じてる?」


「サンタクロース?ああ、あの正体がパピーとかマミーのやつアルナ。」


「うん、それ。というかその言い方からして信じてないね。」


「だってあんなの不法侵入アルヨ。」


「うん。そうだね。」


「なんでそんなこと聞くアルカ?」


新八は漸く沈黙したあと、何かを諦めたような顔をして答えた。


「銀さんがサンタクロースを信じているみたいなんだ。」


「ふーん………は?」


神楽の顔が凍りついた。

新八は先程のことを説明する。


「………え、地球人は大人になってもサンタクロースを信じてるアルカ?」


「いや、普通は10歳前後で卒業すると思うけど。」


「じゃあ、銀ちゃんはなんで信じてるアルか?」


「わかんない。」


二人の間に何とも言えない空気が流れる。

漸くの間二人はそうして空を見上げていた。


シリアスっぽい空気だが、悩んでいる内容はあまりにもくだらない。


「何してんだテメェら。」


沈黙を破ったのは巡回中であろう土方十四郎だった。
イライラと煙草をくわえている。


「てめぇには関係ないアル。このマヨが。」


「総悟を見なかったか?」


神楽の言葉をスルーし、新八に話しかけた。


「見てませんが…また逃げられたんですか?」


「ああ……クリスマス近いんだから仕事なんてやってられねーとさ。近藤さんもはしゃいで仕事ほっぽりだしてテメェの姉のところに行ってるよ。サンタのコスプレしてな。」


思わぬところで自分達が悩んでいた内容に近い話題が出て、二人の雰囲気がずーんと沈んだ。


「お、おい。どうした?」


「土方さん……」


「サンタクロースって…信じてるアルカ?」


「は?!信じてる訳ねーだろ!」


「ですよねー……」


新八は乾いた笑いを浮かべると、がっくりと項垂れた。


「なんでそんなこと聞くんだ?」


「銀ちゃんがサンタクロースを信じてるアル。」


「へぇ、万事屋が……え?」


土方はくわえていた煙草をポロリと落とした。

三人が三人とも似たような反応をしている事などつゆ知らず、神楽は事情を説明した。


「………なんか、からかいにくいな。」


普段であればニヤニヤと笑って「餓鬼かあいつは」とからかっているところだが、真面目な二人の様子にそれをやめた。


「どうすればいいんでしょう……銀さんがサンタクロース信じてるなら一緒に暮らしている僕らがサンタクロースにならないとっ!!」


「いやいやいや、それはおかしい。」


土方が慌てて否定した。


「早い話サンタなんていねぇってことを分からせりゃあいいじゃねーか。」


「そんなの出来ないアル!!」


「そうですよ!!」


「な、なんでだよ。」


土方が二人の剣幕に思わず吃りながら聞くが、二人は「なんでもです(アル)!」の一点張り。

二人は理屈ではなく、本能的にあの銀色の侍を哀しませたくないと思っている。

なんだかんだ言っても銀時が大好きなのだ。


「だったらてめぇらがプレゼント用意したらどうなんだ?」


「そうしたいのは山々なんですが……」


「先立つものが無いネ。」


「金か……」


土方は思案するように顎に触れた。

彼自身も銀時には世話になっているため、恩返しのつもりなのだろう。


「俺が金だけ渡してもお前らは納得しないだろう?」


「当たり前ネ!他人の脛かじって生きていくことだけはしないアルヨ!」


「神楽ちゃんそれ説得力ない。」


他人の脛をかじることに関しては一流の神楽に新八が思わず苦笑していると、土方が口を開いた。


「とりあえずその手紙を手に入れないことにはどうしようもないんじゃねーの?あいつが欲しいもんもわかんねぇし。」


「そうですね。手紙、貰ってきます。」


言うが早いが走り出した二人の後ろで、土方が盛大に溜息をついたことは知らなかったことにしておこう。
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