短編集

□龍馬さんの受難
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<中岡side>

今夜は久しぶりにかずさんが寺田屋に帰って来ていて
龍馬さんも嬉しそうにしている。

いつもより多く準備されたお酒のせいで
今夜の夕餉はさながら宴会の様子を呈していた。




俺はまりやさんが来てから、かずさんのこと姉さんと呼ぶのを止めたッス。

女子が二人いて、片方だけ姉さんと呼ぶのもおかしいだろうと思ったのと

できたら・・・かず、慎太さん・・・って呼び合う仲になれたら・・・
なんて思ってたんッスけど・・・。



ちらりとかずさんの方を見ると、まりやさんと並んで
何やら話しながら楽しそうに食事を進めている。

仲がよさそうで楽しそうにしている二人を見ていると
こっちまで楽しくなるッスね。

まりやさんは酒が呑めるようで、かずさんに酌をされながら
少しずつ杯を口にしている。

ほんのり赤くなった頬が、妙に艶っぽいッス・・・。
あれでかずさんより年下なんて、信じられないッス。

かずさんはお酒に弱いので、いつも呑まない。
今日も一人お茶を飲んでいるように見えたんッスけど
なんだか、かずさんの顔も赤い・・・?

「まりやさん、かずさんは何を飲んでるんッスか?」

ふと疑問を感じた俺は、まりやさんの傍に寄って聞いてみた。

すると

「かず、お酒だめだっていうから、緑茶割りにしたの」
「まりや〜、これ呑みやすいよ〜」

答えるまりやさんと、湯呑を持ち上げてへらへらと笑うかずさん・・・。

まずいッス!

「龍馬さん!、かずさんが酒を呑んでるッス!」

あわてた様子で俺がそう言うと

「なんじゃと!」

すでに出来上がってしまっていた龍馬さんが
慌てて立ち上がる。

「以蔵、にげろ」

武市さんに言われた以蔵君は
持っていた杯を落として、驚いたようにかずさんを見た。
かずさんと目が合う。

「以蔵〜」
「な・・・!」

ふふふ、と笑うかずさんと、固まっている以蔵君・・・。

「どうしたの?」

とまどうまりやさんに

「かずさんは、酔うと以蔵に絡むんですよ・・・」

武市さんが半ば諦めがちに言う。

そうこうしている間にかずさんはじりじりと以蔵君ににじり寄って行く・・・。

以蔵君は壁際まで下がると、左手に刀を持ちかずさんの来る方向に構えた。
以蔵君、刀はまずいッスよ・・・。




「かず、やめるんじゃ」

龍馬さんがかずさんの背後に回って静止しようと肩を掴むけど
かずさんはそれを振りはらって行こうとする。

龍馬さんは、かずさんを後ろから抱きしめた。

それでもかずさんは止まろうとせず龍馬さんの腕の中で暴れるもんだから
二人はそのまま畳に倒れこんだ。

龍馬さんがかずさんを組み伏せる形になり

「龍馬、やりすぎだ」

武市さんの罵声が飛ぶ。

まりやさんの方を見ると、あああ、涙目になってるッス。

俺は、まりやさんの傍に寄り

「大丈夫ッスよ」

と、声をかけた。

「何が大丈夫なんだ」

赤い顔で刀を構えたままの以蔵君がこちらを睨んでいる。

あ〜はいはい、心配しなくても、まりやさんには触れないッスよ。




畳の上で龍馬さんに組み伏せられていたかずさんは、と言うと

「んんん・・・いやぁ・・・」

なんとも艶めかしい声を上げてバタバタと暴れて
あああ、着物の裾がはだけて足が・・・っと思ったら

「!!!う゛っ・・・」

龍馬さんが鈍い声を上げて・・・その・・・股間を押さえてうずくまっている。
・・・龍馬さん、男として同情するッス。

ずるずると龍馬さんの下から這い出したかずさんが、再び以蔵君に
近づいて行ったとき
いつの間にか席を立っていたまりやさんが

「・・・かず・・・だめだよ・・・」

涙目のままかずさんの袖を引っ張って

かずさんは

「まりや・・・。あれ、私、どうかした?」

まりやさんの言葉に正気に返ったみたいで
ほっとした表情の武市さんと
力が抜けたように刀を落とした以蔵君。

「あれ?龍馬さん、どうかしたんですか?」

無邪気に龍馬さんに話しかけるかずさん・・・。

「あ、いや、ちくと・・・のう・・・」

引きつった笑顔を作って、未だに起き上がれない龍馬さん・・・。

ほんと、同情するッス・・・。
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