短編集

□風邪の効能
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龍馬さんが風邪を引いたみたいだ。

夕餉の時、何度も肩を震わせ、己の腕をさする龍馬さんを見てそう思った。

そう言えば、いつも賑やかに食事をする龍馬さんが
今日は幾分大人しいし、食事も少し残していたみたい。

夕餉の後、書き物の仕事があるからって
早々に部屋に戻って行ったけど
体調は大丈夫かなあ。
今日は随分冷えるし・・・。

あっ、そうだ。
いいこと思いついちゃった。

私は、お風呂を上がったあと、それを準備するために炊事場へ向かった。

龍馬さん、喜んでくれたらいいんだけど・・・。


***********


「龍馬さん、まだ起きてますか?」

私が龍馬さんの部屋の前で声をかけると

「おう、起きとるぜよ」

と龍馬さんの返事が聞こえた。

そっと襖を開けて中を窺うと、龍馬さんはまだ文机に向かっていた。

「まだお仕事ですか?」
「いや、何となく寒気がするき、もう休むとこじゃよ」
「あの、これ、身体が暖まると思って作ってきたんですけど」

廊下から、お盆に乗せた湯呑をそっと龍馬さんの部屋の中へと差し入れる。

「おお、すまんの。そんなとこにおると寒いじゃろう。早う入ってきとうせ」
「じゃあ、失礼します」

するりと部屋の中へ身体を入れて襖を閉める。
こちらに向き直った龍馬さんの膝先へ、再度湯呑を差し出した。

「これはなんじゃ」
「えと、生姜湯です。すこしお酒も・・・」
「ワシのために、わざわざ作ってくれたんか?」
「はい、風邪の引き初めは暖かくしていないと」
「すまんの、ありがたく頂くぜよ」

龍馬さんは大事そうに湯呑を持っと、一口、二口と飲んだ。

「おお、こりゃ、温まるのお」

ほんのり赤味の増した頬にすこしほっとして

「それを飲んだらすぐに布団に入ってくださいね」

そう声を掛けて立ちあがろうとした時

「かずも飲んでみとうせ」
「えっ?でも、生姜湯は龍馬さんの分しか・・・」
「じゃで、これを飲んで行きい」

差し出された湯呑を見つめ

それじゃあ、間接キスになっちゃうんじゃあ・・・。

龍馬さんを見ると、そんなことは気にしていないような笑顔で
ほれほれと湯呑を押しつけて来る。

「じゃあ、少しだけ・・・」

受け取った湯呑をゆっくりと口元へ運んで、一口飲んで
お酒を入れていたことを思い出した。

みるみるうちに頬が真っ赤に熱くなる。

「おお、見事に赤くなったのう」

にししと嬉しそうに笑う龍馬さんに

「お酒が入っているせいですよ」

そう言ったけど、それだけじゃあないような・・・。

その日の夜は胸がどきどきしてあまり眠れなかった私だった。

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