短編集

□夜更けの訪問者
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とんとん、と廊下を歩く音がする。

あの足音は・・・あいつだな。
何やってるんだ、こんな夜更けに。

廊下の方へ視線を向けると
俺の部屋の前で立ち止まった気配がして

「以蔵・・・起きてる?」

そう言うと、俺の返事を待たずに
そっと襖を開けて部屋に入って来た。

なんだかそわそわしていて落ち着きがない。
いや、こいつが落ち着きのないのはいつものことだが。

「こんな時間にどうしたんだ?」

何かあったのかと聞いてみるが

「龍馬さんが私の部屋で呑み始めちゃって・・・」

答えは呆れるものだった。

「夜遅くに男を部屋に入れるなと、先生に言われていただろうが」
「だって、龍馬さんだし、『ちょっといいかの』って言われて、つい・・・」

ごめん、と肩をすくめて見せるが
あまり反省している様子はないな。

おそらく軽い気持ちで招き入れたが
龍馬がいつまでも居座っていて、埒が明かなくなって逃げてきたんだろう。

「だからって、何で俺のところに・・・って、おい」

武市先生のように小言を言ってやろうとした時
かずの行動を見て、俺は固まってしまった。

かずは押入れから俺の布団を出して
部屋の隅に敷き始めた。

「何やってるんだ」
「え?だから、ここで寝ようと思って」
「・・・何だって?」
「だから、私の部屋は龍馬さんがいて寝られないから
以蔵の部屋で寝かせてもらおうと思って、ね」

何でそう言う話しになるんだ。

出て行けと言おうと口を開きかけたが

「以蔵は男なんだから、畳の上でも寝られるでしょ」

そう言いながら、布団を敷き終えたかずは
躊躇することなく帯を解き始めた。

「なっ///」

慌ててかずに背中を向ける。

男の部屋で寝るとか、帯を解くとか・・・。
この女は、何考えてやがる。

俺が黙ってるのをいいことに
さっさと着物を脱いだかずは
襦袢姿で布団に潜り込んだ・・・ようだ。

すぐにすうすうと寝息が聞こえてくる。

俺は、かずに背をむけたままため息をひとつ・・・。

明日の朝、龍馬に見つからない事を祈りながら
一睡もできない夜を過ごすことになってしまった。

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