短編集

□お花見
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その日、私は伊集院先生のお手伝いがひと段落したので
縁側で休憩をしていた。

日差しが暖かくて気持ちがいい。

春爛漫。



ここ薩摩藩邸の庭にも
色とりどりの花が艶やかに咲き誇っている。

春と言えば桜だけど
桜の花はもう散っちゃったかな。



私は一人で薩摩藩邸から出ることを許されていない。

以前、こっそり抜け出そうとしたことがあったけど
直ぐに大久保さんに見つかってこっぴどく叱られたんだよね。

それに、私を通してしまった門番の藩士さんは
もっと大久保さんに叱られちゃって
そんな訳で今は藩邸内で大人しくしています。


ぼんやりとお庭を眺めていると
陽気に誘われて眠気が襲ってきた。

このまま少しうたた寝しちゃおうかな・・・
なんて思っていた時

「姉さん」

すぐ近くで懐かしい声がして目を開けると
目の前に慎ちゃんが立っていた。

「慎ちゃん、久しぶりだね」
「お久ぶりッス」
「今日はどうしたの?」
「ちょっと大久保さんに話があって来たんッスけど」

大久保さんの手が空くまで待たされているそうで
その間に私の様子を見に来てくれたみたい。

「薩摩藩邸で寂しい思いをしてるんじゃないかって
皆で心配してたんッスけど、その様子じゃ・・・」

縁側でうたた寝していた私を見て
大丈夫そうですねと慎ちゃんが笑う。

なんだか恥ずかしくなって

「あっ、慎ちゃんの髪に花びらが付いてるよ」

話題をを逸らそうと、手を伸ばして
慎ちゃんの髪についていた花びらを払うと

「かたじけないっッス」

ちょっと赤くなって
照れくさそうに慎ちゃんが微笑んだ。

「これって桜の花びらだよね」
「ここに来る途中、桜並木の道を通ったからその時付いたんッスね」
「桜並木かあ」
「でももう散り始めていたッス」

もう桜も終わりの時期なんだ。

薩摩藩邸の奥の桜もほとんど散っちゃったし
今年はお花見もしなかったなあ。

でも、大久保さんも龍馬さん達も、お花見に行く時間なんてないだろうし
かと言って一人でお花見なんて寂しいだけだし。

「お花見したかったな・・・」

そう呟いた時

「お前はいつまで休憩しているんだ」

いつの間にか縁側にやって来た大久保さん。

「伊集院殿が探していたぞ。さっさと仕事に戻れ」
「はーい。じゃあ慎ちゃんまたね」
「はい、姉さんも」

そう挨拶して
私は急いで伊集院先生の元に戻った。
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