短編集

□陽だまりの贈りもの
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ついこの前まで肌寒さが残っていたけど
段々と温かく感じるようになってきた

すり抜けていく風も春の気配を運んでいるのが桜の香りでよくわかる
「よし」と気合を入れ寺田屋の皆さんのお布団を
ぽかぽか陽気の恩恵を受けられる廊下に一気に干していった


何かと多忙な皆さんが少しでもゆっくり休めるようにと願いを込めて・・・

最後に以蔵のお布団を廊下に干し「ふーっ」と
額に薄らと浮かぶ汗を手拭で拭きとる
休憩と自分に甘く囁きぽかぽか陽気を全身に浴びながらぼんやりと空を眺める


以蔵のお布団の上に腰掛けているのは
最後に干した以蔵のお布団で座る場所が占領されてしまった事///・・・と
お布団から香る匂いで以蔵の存在を少しでも感じたかったから・・・
「・・・以蔵の傷・・・大丈夫かな?」と以蔵の事を思い浮かべていた


三日ほど前の夜 以蔵が怪我をして帰ってきた
心配になった私は以蔵に
「手当てをさせてほしい」と伝えたけど
「お前にしてもらうほどの事はない。気にするな。」
と断られてしまった


以蔵は無表情のまま私に背を向け器用に手当てを終えると
何処かへと行ってしまった
以蔵・・・今夜これから出かけてしまうの?
女の人を買いに・・・


今までも何度かあった光景


怪我をして無表情の時の以蔵は翌朝お酒と白粉の匂いがする事が多かった
だから・・・何処へ行っていたのか私でもわかるくらいだった

今夜もか・・・
と一人残された私は「はぁ〜」と溜息をついた
そして今再び溜息をつく


あれから以蔵の事がいろんな意味で心配だったから
お布団に入ってもあまり眠れずにいた
お酒は寺田屋で皆さんと一緒に飲む事もあるけど
その・・・白粉はね・・・
以蔵の事が好きな私にはその白粉の匂いは・・・
かなりショックな事だった


私では以蔵の相手にもされないって事はわかっているけど・・・
だからと言って想いを口に出して以蔵との関係が可笑しくなるのも嫌だった

「はぁ〜」と以蔵のお布団に触れながらここでも深い溜息をもらしていた
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