短編集

□慎太郎の受難
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<龍馬SIDE>

その日

ワシは部屋で文を書いとったんじゃが
ちくと喉が渇いて、お茶でも入れようかと
炊事場に向かう途中じゃった。

「こんにちは」

玄関先でかずの声がしたような気がして
そっと玄関口を覗いて見ると
そこにはお登勢さんと話すかずの姿があった。

「かず」

ワシが、片手をあげて呼び掛けると
ワシを見つけたかずは嬉しそうに笑いながら駆け寄って来た。

その笑顔にワシの顔も緩んでしまう。

「龍馬さん、こんにちは」

「かず。今日はどうしたんじゃ?ひとりか?」

「半次郎さんに送ってもらいました」

「ほうか。で?」

「えっと、慎ちゃんに用事があって。慎ちゃんはいますか?」

「中岡なら先ほど戻って来て、今は部屋におると思うがのう。
なんじゃ、大久保さんのお使いか?」

「いえ、ちょっと個人的な用事で・・・」

「個人的とは?」

「いえ。じゃあ、ちょっとおじゃまします」

かずは言葉を濁すと、早々に中岡の部屋へ向かってしもうた。

なんじゃ、ちくと気になるのお・・・。





**********


ワシは自分の部屋に戻ると文の続きを書き始めた。

しかし・・・。

さっきのかずの態度が気にかかる。

なんだかそわそわして落ち着きがなかったようじゃった。
中岡に個人的な用事と言うとったし。



「あああ・・・」

集中出来ずに書いた文はいつも同じ所で書き損じてしまう。

がしがしと頭を掻いて気合いを入れ直そうとするが
どうも上手くいかん。

「そうじゃ」

さっき茶を入れようとして
炊事場に向かっていたことを思い出した。

ついでに、かずと中岡にも茶を入れてやるぜよ。

決して、かずが気になって覗きに行くとか
そういうんではないきに。

ワシは自分にそう言い訳して
炊事場で三人分の茶を入れると
そっと中岡の部屋へ足を向けた。
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