短編集

□選択の時〜以蔵偏〜
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<まりやSIDE>

昨夜留里ちゃんから私達がいなくなってからの話を聴いた
でも・・・途中からの私は・・・
留里ちゃんの話を聴いていなかった


ここに来た時には『帰りたい・・・』と望んでいたけど幾ら望んでも帰る方法が
わからなかった
そんな時薩摩藩邸に私より先に此処にきていたかずがいる事を知り心強かった


だったら現実を受け入れ新しい生活に馴染もう そう思った
毎日慣れない生活様式に失敗したり落ち込んだりしたけれどそれでも寺田屋での生活は
人情味に溢れこの時代の人達の心の豊かさを感じる事ができて楽しかったし嬉しかった。


不慣れな私をいつも心温かく見守って応援してくれる龍馬さん武市さん慎ちゃん以蔵に
寺田屋のお登瀬さんや女中さん達に毎日感謝した
少しでも私が出逢った皆さんが毎日笑顔で元気に過ごせますようにと願いを込めて・・・


だから・・・


だから留里ちゃんから帰れる方法を教えてもらっても『帰りたい』と
すぐに結論を出す事ができないくらい私の想いはここに馴染んでいた


その夜の私はお布団に入っても眠る事が出来ずそのまま朝を迎えた


早朝長州藩邸に龍馬さんが迎えにきてくれた
帰り際留里ちゃんから
「まりやさん十日後にまた逢おうね。」と笑顔で見送られたけど
無言のまま微笑み返すのが精一杯の私だった


龍馬さんは何も聴かず 何も言わず
ただいつものようにお陽様のような笑顔で私の歩く速さに合わせて寺田屋へと向っていた
寺田屋近くになった時はじめて龍馬さんからまりやさんと名前を呼ばれた


龍馬さんをみつめると
「まだ時間はあるきゆっくりとまりやさんがしたいようにしたらええ。
わしらはまりやさんの意思を大事にする。
勿論残る事を選んでくれたら嬉しい。」
そう言うと私の肩をぽんぽんと叩き寺田屋の暖簾をくぐっていった


そうだよね・・・
時間をかけて私が私自身でこれからの事を考えないと と思いなおした。


『今ここにいる間はいつもと変わらない私でいよう』そう決心し
元気よく寺田屋の暖簾をくぐった
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