短編集
□繋いだ手から伝わるもの
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<まりやSIDE>
「まりや、ちくといいかのう」
その日、炊事場で洗い物をしていた私に
龍馬さんが話しかけてきた。
ちょうど最後のお茶碗を洗い終わったところだったので
手拭いで手を拭きながら龍馬さんの方へ向き直る。
「何ですか?龍馬さん」
「ちくと菓子を買いに行ってほしいんじゃが、手は空いちょるかの?」
「はい、洗い物ももう終わったし、大丈夫ですよ。会合用ですか?」
「ん〜、まあ、そんなとこじゃ」
はっきりしない龍馬さんの言葉に
秘密の集まりでもあるのかなと考えていると
奥から以蔵が出てくるのが見えた。
以蔵はちらりと私を一瞥すると黙ったまま
上り框に腰を下ろして履物を履き始めた。
「ひとりでは危ないで、以蔵を付けるき」
「えっ、以蔵ですか?」
この時代は、昼間でも女がひとりで歩いていると
危険なことも多いみたいで
こうしてお使いに出る時は誰かが一緒に来てくれるんだけど
以蔵が付いてくれるのは久しぶりだった。
以蔵と出かけると分かってちょっと頬が赤くなる私に
龍馬さんはにこにこと笑いながら近寄って来て
耳元に顔を近づけると
「もう外は暑い。向こうに着いたら少し涼んで来るとえい」
以蔵には聞こえないように小さな声でそう言うと
私の手にそっと一朱金を握らせてくれた。